演劇を深く知りたい。しかし、どこから手をつけていいかさっぱり分からない。そんな時、新国立劇場の座学講座マンスリープロジェクト「日本の劇」シリーズでふじたあさやさんの講座を受講しました。その中でふじたあさやさんは、江戸時代の歌舞伎の成熟を建築の視点から解説されました。
興行はひと月単位、ひと月客席埋めて一人前という常識は、近世都市の発展と大屋根を可能にした建築技術に支えられる。
「大屋根を可能にした建築技術」。これによって、芝居が室内へと移っていったわけです。音響効果、明かり、舞台装置などの技術改革がおこった事はもちろんですが、数百人分の客席が常設されたことにより、歌舞伎は、「数百人を相手にした表現方法の獲得」を迫られたという事です。
演劇は、舞台と観客が作る、という事は舞台に関わる人間なら肌感覚で分かっている事ですが、演劇史を勉強する時にはなぜか「舞台の側(作家・演出家・演者)」ばかりが注目され、「観客の側」がなおざりにされてきたのではないか、ということにハッとしました。観客が演劇とどう関わってきたかを知る事が出来たら、演劇の本質をグッとつかむ事が出来るのではないか・・・そこに人間の人間たる秘密が隠されているのではないか・・・いや、もっと具体的に明日使える新作のヒントがあるのではないか・・・そんな思いが弾けました。
『観客から見る演劇史』
こんな本売ってないかなあ・・・と思って探しましたが見当たりません。
観客の事を克明に記録した酔狂な人はやっぱりいないようです。しかし、劇場に関する情報は残っています。先述のふじたあさやさんの言葉から江戸時代の劇場の情報を集める事は出来そうです。劇場の情報には必ず客席が出てくる。当時の客席を知れば、当時の観客がどのように演劇を捉えていたかをうかがい知る事が出来るのではないか・・・
そう考えて見つけたのがこの本です。
『劇場 ・建築・文化史』S/ティドワース著 白川宣力・石川敏男訳
前回、前々回の記事でも出て来ました。「演劇誕生と神」「演劇と神」のくだりですね。でも、もともとは「当時の観客席」を知りたかっただけなのです。目次を少し見てみましょう。
- ギリシア演劇ー儀式としての演劇
- ローマの遺産
- 中世ー劇場なき演劇
- 古典的劇場の復活
- 絵と額縁
- バロック式宮廷劇場
- 新古典主義の理想
- 演劇におけるジョージ王朝時代
- 大歌劇へ
- 華麗なる時代
- ワグナーの改革
- ショーとビジネス
- これからの舞台とは?
面白そうでしょ?
また脚本を書く側として無視できない記述があります。
一般的には戯曲の形式が劇場の形式を決定した事になっているが、個々の場合を検討してみると、それとは逆に劇場の形式が戯曲の形式を限定していた事が普通であった事は明らかである。(中略)多くの劇作家達が当時の上演の制約に合わせて劇を書いたのである。
これ、まさに我々児童演劇の脚本を書くボク達が考えなくてはいけない事ですよね。小学校の体育館をどう使うか。多目的ホールをどうやって劇的にするか。少人数・低予算化の制約をどう乗り越えていくか。
これを「いま」の枠の中でウンウンうなって考えるより、2500年前のギリシャ時代からさかのぼって考えたほうが、豊かな発見がありそうですよね。
というわけで、しばらく演劇史シリーズは、この『劇場ー建築・文化史』を読み込みながら進めていきたいと思います。しかし、この本をそのまま引用しても意味がありません。(というより著作権法にふれてしまいます)
本文と引用が逆転しないよう、しっかりビジョン(当時の観客を知る! という目的)を持って読んでいきたいと思います。
具体的には、
- 舞台図
- 客席図
- 客層
- 上演時間
- 上演開始時間
- 出演者数
- 音楽との関係
- テキスト(戯曲)
- 宗教行事・国家との関係
に注目しながら見ていきます。途中、他文献との比較も必要になると考えています。面白そう。でも難しそう…
内容はマニアックですがあくまで、西上の進める勉強なので難しくなることはないと思います。これまでのように何か気になった点、連想した点、「間違えてるよ!」という点などございましたらコメント欄に書き込んでください。(Facebook上でもこちらのブログ上でも)新たな問いのヒントにさせていただきます。次回まず取り上げるのは、ギリシャ・アルゴリス地方にあるエピダウロス劇場です。収容人数なんと1万4千人! 紀元前4世紀に建てられたといわれています。