漢字に隠された演劇史1 戯曲の「戯」には、虎の皮を被った役者が隠れている

演劇の事をもっと知りたい! どうせ知るなら元の元から。
というわけで、今日は演劇の歴史について考えてみます。というよりも今読んでいる本の中に思いもかけず演劇の起源に触れるような記述を見つけてしまいまして…これです。

 

 

 

 

漢字です。読めますか? これ、「戯」の元の形だそうです。戯曲の「戯」ですね。読んでいる本はこれです。

「漢字」を手掛かりに古代中国を掘り起こし、当時の生活、価値観、そして人と王と神の関係に言及したすさまじい対談なのですが、その中でこの「戯」の字の由来を知りました。意味は、こうあります。

「戈(ホコ)」で虎を打つ形。虎の頭飾りをつけた者が台に乗っている。ワザヲギ(俳優)と思われる。「戯」から「劇」が生まれた。
ー46ページー

こういう事だそうです。(筆者が書き写したもの。汚い字ですみません)

 

 

 

 

 

 

 

この字が「いつ」出来たのか、明確に触れる記述はありませんが、両氏は殷の時代(紀元前1523年ー1027年)の漢字について話されています。ざっととらえても三千年前には、中国に演劇の原型なるものが生まれていたということですね。そして興味深いのは、

それが仮面劇であった。

ということです。ここで僕はギリシャ古代劇の事を思い出します。演劇の起源と聞くとまず頭に浮かぶのは「ギリシャ演劇」ですが、ここでも仮面が使われていたようです。S・ティドワース著 白川宣力・石川敏男訳『劇場 ~建築・文化史~』の中では、当時の絵が掲載され、

現代の観客に何よりも奇異に感じられるのは、登場人物が一人残らず仮面を被り、背を高く見せるために上げ底の靴を履いていた事であろう。

と記しています。ギリシャでは紀元前534年にはすでに「大ディオュシア祭」と称して悲劇のコンテストが行われていたようですから、今から2500年前の俳優は、仮面をつける事が通常であったということでしょうか。時代はだいぶ下りますが、日本の場合も神楽や能は仮面劇ですよね。

洋の東西を問わず、演劇の起源には仮面が関わっている。

これは、一体何を意味するのでしょうか。
そういえば、5月に行った南アフリカの道路標識に示された劇場のマークはこれでした。やっぱり仮面です。

演劇と仮面はこれほど結びつきが深い、というよりもそもそもは、演劇=仮面劇だったという事でしょうか。現代演劇においては仮面劇は特殊な表現手段の部類に入るのですが…この変革が表す意味は?

 

 

演劇の起源について山形治江氏が『ギリシャ演劇大全』の中でこう述べられています。

ギリシャ悲劇の起源はどこにあるか、正直言って良く分からない。(中略)
だがとりあえず、酒神ディオニュソスに関連する合唱舞踏から生まれたことは信じていいだろう。
ある時、酒に酔った村人達が歌い踊っていると、その中心に立って音頭を取っていたリーダー格の男が群衆から離脱した。彼は集団的熱狂と陶酔の中で自ら神と同化した。集団に対峙した彼に向かって、歌い踊る人々は問いかけた。「おまえはだれだ?」彼は答えた。「私は神だ。」これが演劇誕生の瞬間である。

ここで出て来る「神」という言葉。
また『呪の思想 ~神と人との間~』の中で、白川静氏は漢字の起源について、「神と交通する手段が文字(漢字)であった」と述べられています。
その中に「戯」の字がある。俳優がいる。そして仮面の存在…

人間の想像力の原点がこの中に隠されているんじゃないでしょうか。

目次

関連記事

※その他アカウントはこちらから 

テキストのコピーはできません。
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。