しばいの大学「戯曲研究講座1」の報告

2017年11月20日、新宿芸能花伝舎でしばいの大学で「戯曲研究講座1 ~対話をつかむ~」の授業を行いました。その様子を報告します。

ダイジェスト動画(50秒)はこちら。

目次

しばいの大学とは

しばいの大学とは、「児童演劇のプロ」を目指す人たちのために、児演協(日本・児童青少年演劇劇団共同組合)が作った俳優養成講座の事です。名前に「大学」とありますが、実際の学校ではありません。国立大学に演劇科を持たない日本でもいつかは演劇大学を、そして児童演劇の専門教育機関を、という願いをもってつけられた名前です。(文化庁委託事業)
2017年度は6月末~2月(2018年)まで。場所は、新宿芸能花伝舎や渋谷区のオリンピックセンターを借りて開かれています。
講師陣は、児童演劇に携わる現役俳優、演出家、人形劇人、音楽家、ダンサーetc…
受講生は、年間受講生(6月に締め切り)+単発受講生からなります。単発受講はどなたでも一回2000円で受講することができます。
申し込み先…児演協TEL…03-5909-3064 メールアドレス…info@jienkyo.or.jp

児演協公式サイトへ

戯曲研究講座とは

この講座は、筆者が人形劇団ひとみ座時代「演出家はもちろんのこと、すぐれた俳優や美術家、音楽家は、みな一応に戯曲の読み方が鋭い! アウトプットの前の段階ですでに差が生じている」と感じた事に端を発します。筆者はその後ひとみ座で「戯曲研究会」を主宰し、戯曲はいかに読むべきかという勉強を始めました。「戯曲研究講座」はそのパワーアップ版。俳優のための戯曲インプット術に特化した講座です。

四つの視点

戯曲研究講座は全四回、四つの視点から戯曲を読み解いていきます。

  1. 対話をつかむ
  2. 体をつかむ
  3. ポジションをつかむ
  4. 時間をつかむ

今回は、

でした。

講座開始

18時30分、ほぼ定時でスタートしました。年間受講生7人+単発受講生3人+教務という編成です。

形から入りたくてプレゼンテーションソフトを使いました。

演劇とは何か

授業を始める前にこんな大掛かりな質問を受講生に投げかけました。受講生の言葉が並びます。

 

もちろん答えを出すことが目的ではありません。ただ「演劇とは何か」という問いなしに演劇の勉強は成立しないと思うのです。また言葉にしてみる事は現時点の自分の立ち位置を確認する作業にもなります。ボクも授業に臨む前に考えてみました。

あくまで現時点です。「儀式」なんて言葉は去年だったら使わなかったろうなあ。毎年書き換えて、20,30年分ずらっと並べてみたら楽しいでしょうね。

対話とは(2500年物のハード)

というわけで初回の今日は「対話をつかむ」。対話の定義は「会話」と比較されることでよく語られますが、「戯曲研究講座」では、歴史から見つめてみる事にしました。つまり、いつ演劇に「対話」が導入されたか。それは、はるか2500年前古代ギリシャにアイスキュロスという劇作家が登場したところまで遡る事が出来ます。

アイスキュロス以前のギリシャ悲劇は「コロス+一人の俳優」というスタイルがとられていたと伝えられています。

俳優誕生の瞬間 テスピスについて 演劇史考8

この時には「対話」はまだありません。コロスは聞き手であり、俳優は「答える人でした」俳優を意味するヒポクリテスという言葉には「答える人」という原意が含まれています。
そこに二人目の俳優が登場することによって対話が生まれました。図にするとこんな感じ。

赤が俳優、青はコロスです。観客はどこにいたかというと、上図では、ぐるっと円形に取り囲むような形、下図では、コロス側の外側に半円形よりもう少し大きなかたちで扇型に取り囲んでいました。

古代ギリシャ演劇に舞台はなかった!? 演劇史考4

セリフがこんなに稚拙なわけはありませんが、二人目の俳優が登場した事によって「対話」が始まった。それは対立構造の獲得を意味します。演劇は、対立構造という強固なハードを手に入れる事で2500年間発展し続けてきたと言っても言い過ぎではないでしょう。戯曲の中心となるセリフを読み解くとはつまり対立構造を読み解くこと。一個一個の対話をどのように組み立てていくかが大きな鍵となります。
はい、ここまでで15分。いくらプレゼンソフトで写真入りで説明してもそれでは知識を取り入れた事にしかなりません。そんなものは勉強でもなんでもない。実際この時点で、受講生の内経験者は興味ありげに聞いてくれていましたが、若い受講生はポカーンという顔。そりゃそうです。僕だって映画学校時代「映画史」なんてさぼってましたからね。というわけで早速実践。

グループ分け

まずは「こんな対話を持ってきました」と、受講生に四つの設定を紹介。グループに分かれて読んでみようというわけです。

この中から好きなのを選んでくださいというと3が圧倒的人気。面白いですね。かえるの対話が一番人気だなんて。で、それぞれが何の作品なのか発表してみると…

歓声が上がりました。でもここは、微妙なところですのでちょっと説明させてください。。

演劇以外の教材を使った狙い

演劇の勉強に映画やテレビ、アニメを題材に使ったことに対する疑問の声はあると思います。(『ふたりはともだち』以外は映像作品)
でもボクは勉強というのは入り口をまず「キャッチ―」にしておくという事が大切だと思っております。「あの作品!」という事で受講生のテンションが上がれば、そこに学びの状態が出来上がる。その事が何よりも大切です。また、「すでにその作品を観ている」という事も大切。心躍ったり、涙を流したり、恐怖したりした作品を分析することは、自分自身の感動を分析することです。そこで作り手が作品の中にどのような想いを込めていたか、仕掛けを施していたかを知る事が出来ます。自身の感動に迫る事こそがボクは勉強の自然な形だと考えています。これを演劇作品で行うのは難しい。
昨年からこの形を導入したくかったのですが、ある方から「舞台人を育てるのに映像作品を使うのはおかしいだろう」とご指摘を受けまして断念しました。昨年度の「戯曲研究講座」では、舞台作品の戯曲を用いました。作家さん達のご協力もあり、素晴らしい戯曲を教材に使う事が出来ました。ある作家さんは、当日サプライズで登場もしてくださり最高に盛り上がりました。ただ、戯曲を読む時間に授業時間のほとんどが割かれる問題(前もって読んでおいてもらう事は単発受講の敷居を高くしてしまう)、その戯曲を読んだプロの俳優がどのような演技をしていたか知ることが出来ない問題(再現性が確保できない)などから今年度は映像作品を使用しています。もちろん舞台作品も使います。ただ、昨年度そういう指摘をいただいたことで、映像と舞台作品における演技・戯曲の違いについて自分なりにかなり考える事が出来ました。そして今年度は、昨年とりあげなかった「体をつかむ」という新たな視点を加える事が出来ました。長々と説明してきましたが、映像作品を使う理由はこのようなわけがある事をご承知いただければ幸いです。ちなみにしばいの大学という講座の中で映像作品の一部を上映する際の著作権の問題につきましては、公益社団法人著作権情報センターに確認をしています。

本題に戻って、あがった歓声の中で一番声が大きかったのは「『リング』読みたい!」という声でした。かえるを読みたいとか、ホラーを読みたいとかこういう声が上がる事って俳優心理の何かとても大切な事を表しているようでボクには、とても興味深いです。

 

テキスト

配布したテキストは各作品の一部を筆者が文字おこししたものです。それぞれ800文字くらいのやりとり。特に「対話」が凝縮している部分を選びました。

  1. 『北の国から』 エピソード1 電気がない…言わずと知れた名シーンですね。 エピソード2…純が蛍に母親に宛てた手紙を投函するよう命令する場面。
  2. 『リング』 冒頭の呪いのビデオの都市伝説のやりとり
  3. 『ふたりはともだち』 シリーズの「おはなし」というストーリーの冒頭だけ。
  4. 『天空の城ラピュタ」 「40秒で仕度しな」の場面。

戯曲を読んでみよう

では、さっそくワークショップタイム。
各2~3名で1チームを作ってもらいセリフを読んでもらいます。配役は自由。だいたい二人のやりとりの場面を選んできたので1人余ります。その人はト書き係り&演出家になってもらいました。この時間は僕から言ったのは「モノマネはなし」という事だけです。そして、一旦読んでもらったら自分たちで意見交換。気がついたことや思った事をどんどん言葉にして共有してもらいます。そして次は配役を変えて同じことを行います。盛り上がっているのでどんどん進めてもらいます。

大体一回りしたところでいったんストップ。共有タイムです。

共有タイム

「どんな事を考えながら読みましたか?」
「どんな意見が出ましたか?」と質問してみました。するとこんな答えが出てきます。

いいですねえ。みんな舞台の「背景(バックボーン)」に気を配ってくれている事が分かります。「脚本を読むという事は、脚本に書かれていないことを読む事だ」を地で行っています。しかし、セリフの一個一個の、具体的にどこに注意したか、というような答えはこの時は出てきませんでした。ここで対話の種類を紹介。

対話3つの種類

オイディプス王と預言者テレイシアスのやりとりです。「衝突」とは、どこだと思いますか? はい。全部衝突していますね。託宣を聞きたいオイディプスと言いたくないテレイシアスの間で否定の応酬が飛び交います。対話とは、ワークショップでよくある「Yes and…」ではなく、「No,Because…」という形で進むんですね。実際にはもっと細かく説明しますが、ここでは省略します。

次は衝突とはまた違う対話の構造「ずれ」の一例。

これはボクが書いた『ちゃんぷるー』という芝居の冒頭部分です。だれのセリフか不明瞭ですが、修学旅行生たちのセリフだと思ってください。さあ、どこがズレているでしょう?

ここですね。「視点」や「リズム」がずれている事が分かると思います。

「衝突」でも「ずれ」でも対話によってAやBの意見がCに展開している事がお分かりいただけるでしょうか。※すいません。ブログでは詳細は省略します。

こういうのもあります。

これは「自問」ですね。対話は何も相手役とのやりとりだけではないのです。自分のセリフの中にも衝突がある。では、このセリフのどこに衝突があるでしょう?

ざっとこれだけありました。もっとあるかも知れません。要は読み手の組み立てるわけです。これはマクベスという武将がダンカンという王を暗殺しに行く場面ですが、自問を繰り返し最後は暗殺の決意を固めます。短剣のまぼろしへの自問自答を得て決意がより強固になるわけです。これは、あと数十行続く長いセリフですが、自分のセリフの中の「対立構造」を読み解かない限り、絶対言えないセリフですね。

以上の事を踏まえてもらって再びテキストへ。班替えもしました。『リング』読みたい! という人がいましたから。

発表

そして発表。みなさん楽しそうに読んです。「何が楽しいの?」というと、「自分の気持ちに嘘をついている感じ」とか「相手をあしらうところ」とか面白い言葉が。「ずれ」が絶妙で笑いもおきました。いいですね。セリフを読むって本当に楽しい事です。衝突もズレも自問がはっきりすると、その人物の状態が分かる。気持ちがつかめる。そうするとどうなるか…
その答えはさておき、オリジナルを確認のコーナーへ

オリジナル鑑賞

さて、本日のクライマックス。自分たちがあれこれ工夫したセリフをオリジナルの作品ではどのように読まれていたか、観劇タイム。

はい。『リング』ですね。この数秒後に受講生から悲鳴が上がります。貞子が出てくる場面なんてやってませんよ。電話が鳴っただけです。でも役者の呼吸に受講生がすっかり同期していたので、ビクッと反応してしまうんですね。これ、すごい事ですよ。対話を組み立てて弛緩と緊張をしっかり作れないとこんな作用は起こりません。でも飛び上がった受講生がさっきまで『リング』を読んでいた人だった事も面白い。何が起こるか、全部分かってるのにそれでも怖い。多分、呼吸が揃えば、「その瞬間」を生きることになるのだと思います。いやあホラーは教えてくれることは深い。はい。では、電気をつけて最後の振り返りをしましょう。

振り返り

グチャグチャでどこを読んだらいいか分かりませんが「つるちゃんのリアクションにびっくりした」という言葉があります。ビクッとした受講生の事を言ったんですね。これは本当に面白い感想です。
物語は、対話によって人物の変化を描きながら展開をしていきます。この人物の変化がしっかり描けていれば観客は登場人物に同期し始めます。そして「ビクッ」となってしまう。面白いのは、そこにいる他の観客も、その「ビクッ」に影響される事です。もちろん、これは「ビクッ」だけに限りません。笑いもリラックスも息の詰まった感じ、色々です。俳優の変化が観客に伝播する。するとその変化は観客同士に波及する。次、どうなりますか? 観客の変化は俳優に返ってくるんです。そして俳優自身がまた新たに変化する。この変化の有機的なつながりが演劇の真骨頂だと思います。映像作品は観客からの変化の波を受け取れない。それが出来るのが僕たちの仕事。最初に僕は演劇を「演者と観衆が、時間・空間・体感を共有することで虚構(フィクション)を立ち上げ、日常では到達し得ない「何か」に触れる儀式」と定義しました。それはまさにこのことに起因します。この儀式さえ成立すれば、貞子もこの場に現れる。貞子だと例が悪いですか? 神や死者といっても差し支えありません。能は死者を呼び寄せる儀式です。複式夢幻能と言うのですが「ちゃんぷるー」もその形を借りています。「ふたりはともだち」はかえるくんとがるくんの「時間」に触れる儀式でした。すると来ない手紙を待っている時間がなんとも幸せな時間になる。この儀式を成立させるためには、俳優がしっかり対立構造を読み解いていかなくてはならないのです。

そして!

それだけではいけません。対立構造を読み解くだけでは頭でっかちの俳優になってしまいます。俳優と観客がつながるためには「体感」が一体とならなくてはならないからです。

次回の予告

というわけで次回の戯曲研究講座では「体」をテーマに取り上げます。※子どもの体にも特別注目してみましょう。

3回目以降はこちら。時間はすべて18時半~21時半です。

3回目 「場所をつかむ」12月15日 金曜日 芸能花伝舎 A1
4回目 「時間をつかむ」1月10日   水曜日 芸能花伝舎 A2

動画はこちら。

では、また次回講座でお会いしましょう。
単発受講受け付けています。
申し込み先…児演協TEL…03-5909-3064 メールアドレス…info@jienkyo.or.jpまで。(メールの場合は、件名にしばいの大学「戯曲研究講座」単発受講希望とお書きください)

最後までご覧いただきありがとうございました。

その他の記事

関連記事

※その他アカウントはこちらから 

テキストのコピーはできません。
%d人のブロガーが「いいね」をつけました。