−アニミズム期を生きる子ども達に動物物語を。福岡の劇団だから福岡に伝わる昔話の中で!−『イノシシと月』創作ノート5

いよいよ昔話を選ぶ段になりました。稽古開始まで1ヶ月、初日まで2ヶ月。遠回りを続けてきた創作過程で初めて「決定」が求められる局面。その中でボク達は何を考え、何を発見したのか、自分たちがまだ分かっていないことも含めて綴っていきます。

『三枚のお札』の差し戻し

実は、前回の「火を囲んで昔話」で千春ちゃんが読んでくれた『三枚のお札』が、劇団さんぽさんの方で新作の候補としてあがっていた作品でした。
これは、ボクも好きな話です。ボクの屋号「シナリオ工房天邪鬼(あまのじゃく)」が示すようにボクは、「鬼」とか「山姥」といった社会から爪弾きに合う存在に対して惹かれてしまう性格なんです。
でも今回はこの話は選びませんでした。その理由は以下の三つです。

  1. これを観たら子ども達は山に行きたくなくなってしまうのではないか
  2. 対象年齢を考えると比重がストーリーに偏ってしまう
  3. 本作は、新潟をはじめ東日本に採取例が多く福岡との関連性が薄い

せっかく『三枚のお札』を作るなら、怖くないと面白くありません。しかし今、世の中は子ども達が「怖がること」や「泣くこと」に対してとても慎重です。こういう状況を見ると天邪鬼のボクとしては逆に怖い作品を作りたくなります。(笑)
想像力が恐怖と密接に結びついていることは前回言及した通り。その意味において今『三枚のお札』に着手することはとても意義深い。ただ!

『三枚のお札』を深めれば深めるほど、子ども達を山から遠ざける恐れがある!

これはいけません。だって今回の作品は、「観たら山に行きたくなる」というのが趣旨なんですから。『三枚のお札』は、あくまで「山に行かなてくては生活ができない時代」にあってこそ作用する物語なのだと思います。

それでも『三枚のお札』について調べてみると、魅力的な要素はいっぱいありました。
例えば野村純一氏(ニッポニカ)によれば、山姥という言葉には、「口が耳まで裂けた眼光鋭い人食い」というイメージと、「柔和で豊かな母性」という相反するイメージが同居しているとのこと。また同氏の「里人から見た山中生活者」という視点も都市生活の矛盾を抱える現代をかえって浮き彫りにしてくれそうで面白い。
また、呪術逃走というモチーフも、世界的に例がみられる事から「逃げる」という行為の中に人間の根源的な何事かを発見できるかもしれない。
そういうことを考え始めてると、『三枚のお札』から仏教色排除して再構築すれば、何かスゴイものが出てくるかも! と思い始めますが、今回の企画の趣旨とはちょっと違います。

また、今回の作品は幼保向け作品ですから、上演する時には、3歳未満の子どもたちも座席に付きます。『三枚のお札』はストーリー展開がとても重要ですから、どうしても言葉が多くなってしまうでしょう。
それよりも今回は、子ども達が山そのものを感じて、自分も山の景色の中に溶け込んでいくようなシンプルな作品を作りたい、という思いが強かったのでその意味でも趣旨から外れました。

最後にせっかく福岡の劇団と創作できるのだから、昔話も福岡と縁の深い作品を選びたいと思っていました。
ただ、昔話というのは、「昔々あるところに……」と始まる事からも分かるように、「地域を限定しない」ことが一つの特徴です。場所や地域を限定せず、あったかなかったか分からないけどまああったこととして聞いてくれ、というのが昔話のスタンスで、反対に〇〇池や〇〇山というように場所を限定して、そこにあった出来事を、これは本当にあったんだぞ、と語るのは「伝説」の方に分類されるようです。
じゃあよく図書館などに並んでいる「〇〇県の昔話」とはどういうことかと言いますと、それは〇〇県で採取された昔話ということですね。昔話は口から口へ語り継がれる口頭伝承ですから、その県で暮らす昔話の話し手から聞いた話が「〇〇県の昔話」としてまとめられているというわけです。

こうして『三枚のお札』は候補から外れたわけですが、『三枚のお札』について調べたことで、一口に「昔話」と言っても色々な種類があることが分かってきました。

昔話の種類

昔話の中にはいくつかの分類があります。この分類は話し手ではなく、研究者が行ったものですから、研究者によって分類の方法は、異なってくるのですが、ボク達が最終的に参考にした『日本昔話通観』(同朋舎)によれば以下の三つに分けられています。

  • むかし語り
  • 笑い話
  • 動物昔話

「むかし語り」とは、人間が主人公の昔話だと思ってください。『桃太郎』や『浦島太郎』など、世の中のほとんどの昔話はこれですから、研究者によっては「本格昔話」や「完成昔話」と呼ばれています。
「笑い話」とは、「昔々あるところに……」といった決まり文句から始まらないお話だそうで、昔話より軽く扱われています。逆から見ると、昔話の方は、決まり文句を持ち、「これから始めるぞ」と、構えてスタートするのが特徴で、それはおそらく「使う脳みそ切り替えろよ」という意味があるのだとボクは理解しています。
「動物昔話」は、動植物が主人公の物語で、有名なところでは「猿蟹合戦」や「かちかち山」などがあります。動植物の世界の葛藤や由来を語る物語が主で、「むかし語り」に比べると圧倒的に数が少ないのも特徴です。

そしてボク達はこの中から「動物昔話」を選びました。
その理由をボクは音楽&振り付けを担当者である劇団アフリカのリナさんに、このように説明しています。

リナさんへ

福岡に伝わる昔話にこだわって探しましたが、まずは昔話の分類の一つである「動物昔話」であることを前提としました。これは、動物にも植物にも天体にも自然現象にも話しかけられるアニミズム期の幼児たちにとって一番親和性が高いと考えたからです。

福岡に伝わる動物昔話10編

こうして10本の昔話が候補に上がりました。

  • ミミズと土
  • お天道様と月と雷の話
  • ミミズとヘビの目交換
  • 太陽を射るモグラ
  • モグラの婿選び
  • 猪と月
  • 玉と動物
  • とかげのしっぽ
  • ふくろう紺屋
  • みそさざいは鳥の王(これだけ実は大分県)

タイトルを見るだけでワクワクしてきませんか? 内容もぶっ飛んでいると言いますか、大らかと言いますか本当に素敵なものばかりです。本当は一本ずつご紹介していきたいのですが、それだとあんまり長くなってしまいますから、ここでは省略します。気になる方はぜひご自分で調べてみてくださいね。

そしてボク達はこの中から『猪と月』を選びました。

『猪と月』原文

山の中で動物がみんな集まって、「明日の晩は十五夜だから、めいめいが面白いことをしてお月さんに見せよう」と相談する。ウサギは月見の餅つき、狸は腹づづみ、猿は木登りというように、みんな何かするが、猪だけが何もできないのでバカにされる。猪ががっかりして帰宅すると、弟猪が事情を聞き、翌晩、山の上で二匹が相撲を見せる。月が笑い、みんなも見物しに来ると、月は「自分のことを自慢して、人のことを笑ってはならない。猪が一番良い」と言った。それで猪が月夜に山の中で相撲を取るのである。

話し手−福岡県宗像郡宗像町赤間(旧赤間町陵厳寺)・女

『日本昔話通観第23巻 福岡・佐賀・大分/同朋舎』より

選考理由

選考理由についてもリナさんへのメッセージの中で触れています。

最終的にこの話を選んだ理由としては、まず「いろんな動物が出てきてそれぞれ出し物を披露する」という内容が演劇的に膨らませることができそうだということ。そしてこれは、みゆきさんの言葉ですが

”最後猪が相撲をとって月が笑うけど、そこに集まった動物もみんな笑ったと思うんですよね。なんかそれがいいなあって”

つまりどこまでも朗らかな物語にできそう。長さんが言った言葉も素敵でした。

”どうして月は猪の相撲だけを笑ったんですかね?”

たしかに!
他の出し物は笑わなくて、猪兄弟の相撲だけを笑ったのはなぜか。
ボクはこれを「猪だけが自慢をしなかった」ということではなく、もっと別の理由の中に発見したいと思っています。
そこには猪の慎ましさやひたむきな思いがあったかもしれませんが、月がそれを称賛して他を注意するような教訓の物語ではなく、もっと朗らかなラストにしたいと思いました。そう思えたことで決定。
最後まで多数決はとらず、ゆっくりいろんな角度から検証し、最後は「じゃ、これにしますか」と軽く決めた感じです。タイトルの猪を読みやすくカナにして「イノシシと月」としました。
2020年3月4日

そしてこの手紙から約1ヶ月後の3月31日、ボクは脚本を書き上げました。

『イノシシと月』脚本脱稿!

ボクは劇作家としてこれまで「構成」を大切にしてきました。
作品の趣旨はもちろんのこと、「キャラクター設定」「シノップシス(あらすじ)」「プロット(構成表)」をそれぞれ作り上げてから、脚本執筆に取り掛かるというのがボクの書き方でした。

『ちゃんぷるー』のプロット

それが今回は、プロットなるものは一切作らず、先程の写真にあった6枚のカード「月が昇る」「動物が集う」「水が湧く」「月が笑う」「風が吹く」「夜が来る」だけを頼りに最初から最後まで書き切りました。

もちろんラクをしたかったわけではありません。
昔話に着手するにあたっては、構成という意図から離れて物語を紡ぐ必要を感じていたからだと思います。
この書き方が良かったのかどうかはまだ分かりません。
ただ、ボクにとってもみんなにとっても全く新しい作品づくりが確実に始まっています。

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