ずっとやってみたかった日舞を習い始めました。近くて遠い伝統芸能の世界をこれから週一でレポートしていきます。どうぞご笑覧くださいませ。
目次
これは「留学」だ!
演劇留学。この世界に関わる方なら一度は意識するでしょう。ボクも3年前に南アフリカで開かれた児童演劇の世界大会に参加してからは「海外で学んでみたい!」という想いを持っています。どこに行って何を学びたいかがはっきりしないので動き出せてませんが……
でも海外留学だけが全てじゃないですよね。むしろ、伝統芸能と地続きでない現代演劇に身を置く自分としては、日本の伝統芸能の世界に学ぶ事は、ひょっとすると海外に留学する以上に大きな発見があるかもしれません。育成システムはおろか、「何を劇的とするか」というドラマツルギーそのものが伝統の世界と我々では大きく違っているようですからね。だとすると、伝統芸能の世界に学ぶという事は、もはや「留学」と呼んで良いのではないでしょうか。自宅から通える留学先がボクの場合練馬区にありました。というわけで、日本舞踊家坂東冨起子先生の「ふきの会」に入門です。
ふきの会とは
坂東流日本舞踊家、坂東冨起子先生が主宰するお弟子さん達との日本舞踊の勉強会です。
練馬区の他にも、世田谷・板橋・埼玉県川口市でも教室を開いているようですよ。
詳細は、ふきの会「教室のご案内」へ。
なぜ日舞を選んだか?
伝統芸能を学ぶにしても沢山の選択肢があります。歌舞伎、能・狂言、日舞、三味線、落語etc……。ボクがその中で指針にしたのは「真似したくなった事があるか」という事でした。するとボクの場合、歌舞伎、狂言、日舞という選択肢が残りました。ここで日舞が優勢に立ったのは坂東先生の、
日舞には能の動きも歌舞伎の動きも入ってますよ。
というお言葉があったからでした。あとは狂言のセリフ回しの魅力との一騎討ちになったのですが、今の自分の場合、言葉よりも身体について学ぶ事が重要であると思いましたので、日舞を選びました。本当は両方学べたら一番なんですけど、そんな余裕は我が家には残念ながらありません。
もちろん、1番の決め手は坂東先生というすごい先生が身近にいたという事です。坂東先生とは脚本の勉強会を通じて数年前から交流がありました。坂東先生のどこがすごいのかを考えることは、現代演劇に何が足りないかを考える事に直結するので、ぜひ書いておきたい事なんですが、長くなりそうなのでそれはまた別の機会に。
それよりもっと実用的なことをレポートしましょう。日舞ってお稽古の前に何を用意しておかなきゃいけないの?
稽古前に用意するもの
- 稽古着(浴衣、角帯、腰ひも、肌襦袢、白のステテコ、足袋、スポーツタオル)
- 月謝ほか(入門料、月謝、月会費)
この2つです!
まずは早速稽古着を用意する事にしました。でも肝心の浴衣はなんと! 坂東先生の旦那様のものをいただけるとのこと! ありがたく頂戴しました。これがまた素晴らしい物で、きちんと写真入りでご紹介したいのですが、初日の稽古は写真を撮る余裕なんてなかったので、また別の機会にご紹介させていただきます。
というわけで、他の角帯などを買い揃えていくのですが、ボクは普段から浴衣なんて着た事がないので、どこで買えば良いかも分かりません。そういうお弟子さんが多いんでしょう。坂東先生はお薦めのオンラインショップも教えてくださいました。それがこちら。
この中の「和装下着」→「紳士物肌着・襦袢」と進めば必要なものが出てきます。さらに坂東先生からは、「どんな物か分かればネットでもっと安いものを見つけてもいいですね」とアドバイスをいただきました。というわけで、ボクは新宿津田屋さんには申し訳ないのですが、Amazonのキョウエツさんで購入しました。
いつか物の価値が分かるようになれば新宿津田屋さんにもお邪魔してみたいと思います。
ちなみにスポーツタオルは、浴衣が緩い場合に腹部に巻くのだそうですが、ボクの場合太っていたので必要ありませんでした。(汗)
次にお金の準備ですが、坂東先生にレポートの趣旨をあらかじめお伝えしていたところ、このようなお返事をいただきました。
レポートされるというので、一応この世界のしきたりというか、慣習をお聞かせしますと、 初回は、蝶結びの熨斗袋か白い封筒を2枚用意し、1枚には上に『入門料』、もう1枚には『月謝』と書いて、それぞれ下に名前を書いて金額を包み、稽古の前に師匠の前に出して挨拶します。 たかがお金の受け渡しといえばそれまでですが、のし袋の意味、そこに新券を入れるのは、昔ながらの日本人ならではのマインドです。
横着なマインドで生きてきたボクには全くない習慣です。早速用意しました。
下手な字ですみません。妻にも笑われました。一応小学校の時に6年間習字に通ったんですけどね。イヤイヤやってましたから全く上達しませんでした。まあ、習いたいと言ったのも辞めたいと言ったのもボクなんですが……。お札は銀行で新券をおろしてきました。お札の向きは、結婚式のご祝儀の例に倣って肖像画を上向き、かつ袋の口側になるように入れました。封をするのかしないのか、これは大いに迷いましたが、一応しておきました。金額については、ふきの会「教室のご案内」をご覧いただきますと確認できます。入門料は月謝の一月分です。週一回それもマンツーマンレッスンであることを考えるとカルチャースクールなどより断然お得なのではないでしょうか。というよりも、損とか得という考え方をすること自体が何か重要なものを見落としてしまうそもそもの原因なのかも知れませんが……。この話題はやめましょう。すでにAmazonで帯一色揃えちゃったんで。
のし袋と新券の意味
一応お断りしておきますと、坂東先生は「これでなくては受け取らない」なんて頑固な先生では決してありません。むしろ、先生の創作舞踊は毎回素人のこちらがハラハラするほど遊び心に富んだ物で、ある批評家をして「坂東冨起子は才能の無駄遣い」と言わせしめたほど。それはきっと坂東先生にとって最高の褒め言葉で、日舞という伝統の世界にいながら先生はおそらく誰よりも「現代性」を意識されているはずです。今回、日舞の世界の慣習を教えてくださっのは、現代演劇人の視点から伝統芸能の世界を学んでみたいと言ったボクの要望に(それならお伝えしますが)という()書きが入っていることをご承知おきください。
その上で先生がお話してくださった、のし袋の意味ですが、大切なのは気持ちであって金額ではない、ということを表した文化なのだそうです。
お金を裸で渡してしまっては金額がものをいう世界になってしまいます。懐事情は人によって違いますが相手を思う気持ちは同じ。お金を包むことによって、金額に関係なく気持ちを表現できるようにしたのがのし袋という形なのだそうです。
ドキッとしました。実は私先月電子マネーの導入について色々調べていた時期がありまして、意外にそれが簡単そうだったのでこの機会に先生にもPayPay導入を進言しようかと思っていましたから。「先生、日舞教室の月謝をPayPayで払えるって新しくないですか?」……ああ、言わなくてよかった。
また、新券についてですが、先生がおっしゃるには「こういうことのためにわざわざ銀行にいく必要はない」とのこと。そうではなくて、新券が入ってきた時に使わずに「取っておく」という行為が重要で、その取っておいたお金をいざという時にお渡しするということに意味があるのだとか。
なるほど。こっちは形よりも行為が重要なのか。また一つ日本人のこころ配りを学びましたが、同時にもう一つの発見がありました。先生のお話を伺っているうちにありえないほど足が痺れていたのです。正座なんて普段ほとんどしませんから、立ち上がることができません。坂東先生は笑って足を振れば治りが早いこと、江戸時代までは今のような正座はなかったこと、それまでは片膝を立てたような座り方が正座でそれは朝鮮半島から伝わってきた座り方であったことを教えていただきました。
今日のまとめ
- 伝統芸能は国内留学
- Amazonが結局便利
- のし袋と新券は気持ちを表すひと工夫
- 正座は江戸時代以降の習慣
あれ?稽古は? はい。初日の稽古はもう全てにいっぱいいっぱいだったのでレポート出来ません!
次回からは、具体的な稽古の内容に踏み込んでレポートしていきたいと思っています。写真や動画も撮影許可をいただきましたので、今度は稽古場の映像込みでお届けします。稽古は毎週水曜日ですから目指せ木曜日発信。お楽しみに!
最後にふきの会ホームページに面白いQ&Aがありましたので一つこちらにご紹介させていただきます。
Q、日本舞踊って着物でしなしな動くの?
A日本舞踊には、しなしな動く踊りもあります。でも、「初めて日本舞踊を見ました」という方は、よく「日本舞踊って、こんなに動きの激しいものもあるんですね」とおっしゃいます。そうなんです。日本舞踊には靜もあれば動もあり、動の踊りはスポーツ並み。でも、実は、ほとんど動いていないように見える踊りの方が身体的にはキツかったり…。(坂東冨起子)