『天空の城ラピュタ』から読み解く劇作の基本テクニック〜セリフ編〜

今回は、「セリフ」に注目してみていきたいと思います。ラピュタには名台詞が沢山出てきますよね。それはもちろん宮崎駿氏の突出した才能があってこそ生まれてきたものですが、今回もその才能に注目するのではなく、あくまでその才能を支えた基本、つまり「セリフの構造」について考察してみます。
なお、本記事は、鹿児島県伊佐市で現在開講中の「お話づくり講座」の内容を元にしてあります。最後には、小6の受講生が書いた「セリフ」も登場します。皆さまも受講生になったつもりで一緒にお楽しみくださいませ。ではいってみましょう。

掲載しているラピュタの静止画はスタジオジブリの公式サイトで公開されているものを借用しました。

セリフと日常会話の違い

物語の登場人物が話す言葉の事を「セリフ」と言いますが、それは我々の日常会話と何が違うのでしょうか?

これを考えるために講座ではまず「Yes,and…」というゲームをやってみました。
このゲームは、2人1組になって、相手が話したことを「いいね〜」と受け止めて「だったら〇〇しようよ!」と提案し、2人でどんどん盛り上がっていく遊びです。実際にやってみるとこんな感じになります。

A 暑いね〜。プール行かない?
B いいね〜。じゃあ25メートルどっちが早いか競争しようよ。
A いいね〜。負けた方が勝った方にアイス奢るっていうのはどう?
B いいね〜。どうせならエアコンが効いた部屋で食べたいね。
A いいね〜。じゃあジョイフル行こっか。
B 行こう!

これやってみると結構楽しいです。
自分の言ったことを相手が肯定してくれた上で新しいことを提案してくれるから盛り上がるんですね。
日常会話はいつもこんなに盛り上がっているわけではありませんが、基本このように「同調」をベースにして進みます。日常でいちいち衝突していたら大変ですからね。

ではここで『天空の城ラピュタ』のセリフを見てみましょう。
はい。あの名台詞が出てくるあの場面です。

40秒で支度しな!

パズー、家の中に引きずり込まれる。

パズー 離せ! 何をする!!
海賊1 騒ぐんじゃねえ。(縛り上げる)
パズー イテテ。
ドーラ ちょっと借りてるよボーヤ。
バズー 出てけ!
海賊1 (縄を引っ張り壁に縛り上げる)
パズー ここはボクのウチだぞ。
ドーラ 偉そうな口を聞くんじゃないよ。娘っ子一人守れない小僧っ子が。
パズー なにい?
海賊1 こいつ金貨なんか持ってら!
ドーラ やれやれ。娘を金で売ったのかい?
パズー 違う! そんなことするもんか! 
ドーラ その金で手を引けって言われたんだろうが。
パズー シータがそうしろって言ったんだ……だから……。
ドーラ ペッ! で、いじけてノコノコ帰ってきたわけかい。それでもお前男かい! え?
パズー 威張るな。お前たちだってシータを狙ってるじゃないか。
ドーラ 当たり前さね。海賊が財宝を狙ってどこが悪い! おかしなのはあいつらだ。なぜこそこそ娘をさらったりするんだ。お前あいつらがあの子を生かしておくと思うのかい?
パズー はっ……。
ドーラ シータがそう言った? バカ。お前を助けるために脅かされてやったに決まってるじゃないか。
海賊2 よく分かるねママ。
ドーラ 伊達に女を50年やってるんじゃないよ。泣かせるじゃないか、男を助けるためのつれない仕草。私の若い頃にそっくりだよ。お前たちも嫁にするならああいう娘にしな。
海賊2 へ? ママのようになるの?
海賊3 あの子?

無線探知機が鳴る。 ドーラ、机の上の食べ物飲み物をぶん投げて無線機を引き寄せる。

海賊2 ああ、もったいない……。
ドーラ へへん。暗号を変えたって無駄だよ。(解読し)……飛行戦艦を呼び寄せたな。

夜空を飛ぶ飛行戦艦。

ドーラ 娘を乗せて出発する気だ。急がないと手が出せなくなる。出かけるよ。いつまで食べてるんだい?
海賊2 ああ、はい。ママ。

息子たち、食べ物に未練を残しつつ慌てて準備する。

パズー シータをさらいにいくの?
海賊1 嫁はいらねえ。飛行石さ。
パズー 石だけじゃダメだ。あの石はシータが持たないと働かないんだ。おばさん、ボクを仲間に入れてくれないか。シータを助けたいんだ。
ドーラ 甘ったれんじゃないよ。そういうことは自分の力でやるもんだ。
パズー そうさ。ボクがバカじゃなくて力があれば守ってあげられたんだ。ラピュタの宝なんて要らない。お願いだ。
海賊2 ほう、泣かせる〜
ドーラ お黙り! 
海賊2 はん? ハイ!(逃げる)

パズーを見つめるドーラ。

ドーラ その方が娘が言うことを聞くかもしれないね……二度とここへは帰れなくなるよ。
パズー 分かってる。
ドーラ 覚悟の上だね?
パズー うん!
ドーラ (ロープを切る)40秒で支度しな!


以上です。
ではここからはセリフの特徴について見ていきたいのですが、その前にこの場面を読んでみて、どんなことを感じたか、まずはあなたの感想を列挙しておいてください。何かを学ぶ時にまず自分の感想や印象を足掛かりとする。これはとても大切なことです。

ちなみに受講生からはこんな感想が出ましたよ。

受講生の感想
・セリフだけで状況が分かる。
・ドーラが仕切ってる感じがする。
・パズーが途中からしゃべってない。

そう。感想はなんでも構いません。むしろしっかりした感想を捻り出そうとしたりしないで、どんどん出してください。感想はまとめない。これもとても大切な事です。ちなみにボクの感想は、「面白い!」「ドーラすげ〜」「海賊が可愛い」「ワクワクしてきた〜」でした。

では、これらの感想を引き起こしたこの場面のセリフにどんな秘密が隠されていたかを考えていきます。そのアプローチとしてまずは「時間」に注目してみましょう。

時間の秘密

ここで問題。この場面の時間はどれくらいあったと思いますか?

答えは3分2秒です。

でもたった3分間の間に、ものすごくいろんなことが起きていますよね。

現実世界ではそうはいきません。ぼうっとしていたら3分なんてあっという間に過ぎてしまいます。
でもこのシーンでは、たった3分間で落ち込んでいたはずのパズーが元気を取り戻し、敵だったはずのドーラと手を組み、シータを奪還してラピュタを目指そう! とまで動き出すのです。

これは物語というものが現実世界よりも圧縮されたものだからなのですが、下手な作家が書くと観客は「強引!」「ご都合主義!」と感じて心が離れていきます。でもラピュタでは多くの観客はそうなっていません。むしろ、この場面でさらに前のめりになった人は多いはずです。宮崎駿氏は、このシーンに一体どんなテクニックを使ったのでしょうか。

セリフは「No because…」で書かれている!

では、先ほどのセリフをもう一度見てください。
現実世界の我々が同調ベースで会話を進めていくのとは違い、この場面のセリフは相手の言い分に対して「No!」を突きつけている事が多いと思いませんか?
先ほどの台本部分に戻って、相手の言い分を否定している部分を書き出してみましょう。

講座ではみんなで一つずつ印をつけていきました。以下のようになります。

  1. 離せ(パズー)
  2. 騒ぐんじゃねえ(海賊1)
  3. 出てけ(パズー)
  4. 偉そうな口を聞くんじゃないよ(ドーラ)
  5. なにい(パズー)
  6. やれやれ(ドーラ)※
  7. 違う!(パズー)
  8. その金で手を引かれたんだろうが(ドーラ)※
  9. シータがそうしろって言ったんだ(パズー)※
  10. ペッ(ドーラ)
  11. 威張るな(パズー)
  12. 当たり前さね(ドーラ)※
  13. 嫁はいらねえ(海賊1)
  14. 石だけじゃダメだ(パズー)
  15. 甘ったれんじゃないよ(ドーラ)

すごい量ですね。
ことごとく相手の言い分を否定しています。

※印は、一見肯定にも見えますが相手の言い分を否定していますのでこれもやはり否定としてカウントしています。どこまでが否定か……などとシビアになる必要はありません。
否定が多いんだなあ、くらいに思っていていただければOKです。

次に注目したいのは、否定した後に付け足した言葉です。

3.出てけ→ここはボクのウチだぞ
4.偉そうな口を聞くんじゃないよ→娘っ子一人守れない小僧っ子が
6.やれやれ→娘を金で売ったのかい?
7.違う!→そんなことするもんか!
8.(否定は省略)→その金で手を引けって言われたんだろうが
9.シータがそうしろって言ったんだ。だから……
10..ペッ!→で、いじけてノコノコ帰ってきたわけかい。それでもお前男かい! え?
11.威張るな→お前たちだってシータを狙ってるじゃないか
12.当たり前さね。海賊が財宝を狙ってどこが悪い! おかしなのはあいつらだ。なぜこそこそ娘をさらったりするんだ。お前あいつらがあの子を生かしておくと思うのかい?
13.嫁は要らねえ。飛行石さ
14.石だけじゃダメだ→あの石はシータが持たないと働かないんだ。おばさん、ボクを仲間に入れてくれないか。シータを助けたいんだ。
15.甘ったれんじゃないよ→そういうことは自分の力でやるもんだ

どうでしょう。ほとんどの否定が、否定だけにとどまらずその理由を述べています。
「No,because…」という文脈で書かれているんですね。そして否定とその理由を突きつけられた相手がさらにそれを否定し反論することで対話が構築されています。
6から12のやりとりをご覧ください。これは全てつながったやりとりです。
それが全て「No,because…」の応酬になり、最終的にドーラの「お前あいつらがあの子を生かしておくと思うのかい?」に繋がっています。この一言は重要ですね。この一言がパズーに決心を起こさせているのですから。

皆さん、作家目線で考えてください。
この場面でパズーが決心するためにはドーラの「お前あいつらがあの子を生かしておくと思うのかい?」が必要です。どうやってその一言に繋げますか? どうやったら唐突でなく、説明的でなく、ドーラがさも自然にそう言ったように書くことが出来るのでしょうか。

宮崎駿氏はここに「No because…」という文脈を惜しげもなく投じました。
それがセリフの基本テクニックだからです。

ドラマとは劇的葛藤のことです。葛藤とは相手との衝突、自己との衝突です。
「No」で衝突してその理由を述べその理由に説得力があれば、衝突された相手は違う言い分を用意せざるを得なくなります。それはその人物の行動線の角度を変えたことになります。そうしている間にパズーはドーラに「仲間にしてくれ」とまで言ってしまうのです。これは言ったパズー本人も、言われたドーラも、聞いていた海賊たちも思いもよらなかったこと。これは、みんな「変化」したということです。だから観ていた観客の方も変化する。

逆から言いますよ。この場面が面白いのは、観客自身が変化がしたからです。その変化を引き起こしたのは、登場人物たちの変化です。そして、その変化を引き起こしたセリフに「No because…」という文脈が使われているのです。

これがセリフとは何かの1番の秘密であり、日常会話との違いであり、現実を圧縮するために生まれた魔法のような発明なのです。

では一体それはいつ発明されたのかと言いますと、それはおそらく古代ギリシャで2人目の俳優が誕生した瞬間にあるのではないかとボクは考えますが、話が長くなりますのでここでは省略します。興味のある方は下記をご覧くださいませ。

ちなみにシェイクスピアのセリフにも「No because…」が沢山出てきます。
特徴的なのは、対話の応酬部分だけでなく一人の長ゼリフも「No because…」で構築されていることですね。

シェイクスピアの「No because…」

マクベスのセリフ

短剣か、そこに⾒見えるのは? 柄(つか)をこちらに向けて。 よし、掴んでやる。手にもさわらん。しかしまさに見えて いる。忌々しい幻め、目に見えても手にはさわれんのか? それともただ心に映る短剣、熱に浮かされた頭が生み出す幻覚に過ぎんのか? まだ見える、まざまざと手に触れんばかり、こうやって抜き放ったこれと同じだ。おれを招いていくな

『マクベス』シェイクスピア作 木下順二訳 岩波文庫より

ね。「No because…」で構成されているでしょう?
シェイクスピアの時代はセット転換も照明変化もなかったので基本的にこのように1人の俳優の中で「No because…」を使って世界を作り、劇的葛藤を高めて、それを相手に突きつける、という形で物語が展開していきます。だから下手な俳優さんでは成立しません。俳優の良し悪しを判断する基準は沢山あると思いますが、ボクはこの「No because…」を表現できるか、ということがとても大切だと思います。要は、変化出来る俳優かということですね。

ラピュタをもう一度観てください。ラピュタはアニメですが、「No because…」の瞬間の人物の呼吸や姿勢の変化が、アニメーションと声優さんによって見事に表現されていますよ。

ですから、「No because…」という文脈はとても大切なのですが、それもこの身体の変化を引き起こすためのものである、ということが言えると思います。

一番大切なのは、登場人物の変化であり、それを見守る観客の変化であり、それを書いたあなた自身の変化なのです。

セリフを書いてみよう!

ではあなたの物語の登場人物のセリフを書いてみましょう。
え? こんなに大袈裟なこと言われてどこから書けばいいか分からない?

ごめんなさい。(笑)でも大丈夫。あなたの物語にはすでに主人公と敵対者がいるはずです。
主人公には主人公の目的が、敵対者には敵対者の目的がありますね。
そんなお互いの目的が浮き彫りになる場面や衝突する場面を書けばいいのです。それは物語の発端の部分でも、差し迫ったクライマックスでもOKです。ただし「No because…」という文脈を使ってみてください。これは遊び、練習ですから気兼ねなく。

と言って講座では10分時間を取りました。
すると、今まで脚本を書いたことのない人の鉛筆もカリカリ動く。
ここでは小学6年生の女の子が書いたセリフを紹介したいと思います。

その1
A あたしは先ぱいのためにがんばってるんだよ。
B わたしは違うね。自分に目標があるから。

その2
A あたしが絶対じきゅう走で1位をとる。
B るみにはムリ。わたしが1位になる。
A どうしてそんなことが言えるの? 最後までわかんないじゃん。
B わかるんだよ。自分のために進むわたしとの差がね。

その3
A あたし今ちょー元気だよ。
B そうは見えない。走りのペースがみだれてる。
A みだれてない!
B 休めば? その分私は走るけど。

以上です。
「No because」の文脈をものにしてますね〜。
どんなことを考えながらこれを書いたの? と尋ねたところ、

・どっちかが弱気にならないように
・セリフの最後の言葉を工夫して同じ言葉で否定から入れるように工夫した

と言っていました。
「わかんないじゃん」→「わかるんだよ」
「みだれてる」→「みだれてない」
のことですね。
特に「わかるんだよ」は、言葉は肯定ですが、相手への否定になるように工夫されています。
すごい! これはボクも参考にさせてもらいたいテクニックですよ。

さあ、あなたもセリフを書いてみてください。「No because…」で書くと、あなたの登場人物は思わぬことを言い出してくれるはず。それがあなたに変化をもたらしてくれます。だから劇作は楽しいのです。苦しみがもれなくついてきますけどね。(笑)

今回は以上です。次の講座では、プロットについて考察したいと思っておりますが、それは9月以降になります。最後までお付き合いくださりありがとうございました。

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