『天空の城ラピュタ』から読み解く劇作の基本テクニック〜キャラクター編〜

2022年度は、鹿児島県伊佐市の地域おこし協力隊の活動として「お話づくり講座」(全6回)を開いています。
これは「劇作術の基本を学んであなただけの物語を書いてみませんか?」というライトな講座で、現在小学6年生から大人まで計6名が参加しているのですが、講座の内容を一部SNSなどで公開したところ、私が身を置く児童演劇界の関係者だけでなく、幅広い職業の方々から反応がありました。

その理由は、教材に『天空の城ラピュタ』という誰もが知る名作を用いたためなのですが、名作から劇作の基本テクニックを抽出して解説するという本講座の手法は、「感動を支えた作品の裏側に迫る」ようで、スポーツの解説のように親しみやすいのかもしれません。

そこで今回は、授業内容の一部を公開し、『天空の城ラピュタ』に隠された感動のレシピを紐解いてみたいと思います。私の実力で日本を代表する映画監督 宮崎駿氏の技術に迫るなど、恐れ多いのですが、私も劇作家の端くれ、なんとか基本テクニックくらいは読み解いてみたいと思います。

なお、今回の記事は、「キャラクター」について解説した講座の内容を、その日休んだ受講生に送った手紙を元にして書いていますので、前の講座の内容が出てきたり、質問を投げかけたりします。その点はご容赦いただき、一緒に講座を楽しむ感覚で読み進めていただけましたら幸いです。

掲載しているラピュタの静止画は、スタジオジブリ公式サイトで公開されているものを借用しました。

パズーの裏の顔

前回、キャラクターには「ポジション」があることをお話しました。

【キャラクターのポジション】
主人公…目的を持つ者。または矛盾があらわになる者。
敵対者…主人公の障害となる人物。主人公とは別の目的を持つ。
協力者…主人公に協力する人物。主人公とは別の目的を持つ。
ロマンスキャラクター…主人公にときめきを与える存在。

ロマンスキャラクターはいなくても成立します。
ポジジョンは「兼ねる」こともできます。
ポジションは「チェンジ」することもできます。

では、『天空の城ラピュタ』のキャラクターポジションをもう一度確認しましょう。

主人公…パズー(&シータ)
敵対者…ムスカ
協力者…ドーラ
ロマンスキャラクター…シータ

ですね。

今日は、それぞれのキャラクターポジションについてもう少し深掘りしてみようと思います。

まずは主人公から見ていきます。
パズーはどんな人物ですか? 人柄、性格など、あなたがパズーに抱く印象を列挙してみてください。

講座では、「元気」「聡明」「誠実」「器用」「勇気がある」。こんな言葉が並びました。

では、ここで問題。

Q、そんな元気なパズーも劇中、元気がなくなる場面があります。それは時間にしてどれくらいの時間だったでしょう?

ムスカから金貨を渡され、家に帰る場面ですね。
あれは何分くらいあったでしょうか? という質問です。
ちなみにラピュタは全体で124分あります。
参加者からはいろいろな答えが出ました。10分、20分、15分、5分……。
一体何分くらいだったでしょうか?

答えは、4分30秒間です。
※シータに「さよなら」と言われて放心状態になったところから、ドーラに対して「仲間に入れてくれないか」と能動的行為に出るまでで計算

意外に短いですか?
これはこの物語が「血湧き肉躍る冒険活劇」を目指しているからですね。
主人公に元気がない時間が長くなってしまっては、物語は停滞します。もちろんそうやって心の機微を丁寧に描いていく手法もあります。映画『仁義なき戦い』の脚本家 笠原和夫氏は、これを映画骨法十ヶ条の「ヤブレ(第六条)」と呼びました。

しかし、宮崎駿氏はその手法を使わず、落ち込んだパズーにすぐさまドーラをぶつけ、落ち込んでいられない状況を作り出しています。結果パズーは、ドーラの鋭い考察からシータの「さよなら」が本心ではないことを知り、再びラピュタを目指す活力を取り戻します。

ここで大事なのは、「元気、聡明、勇気がある」といった印象のパズーにも「落ち込む時があった」ということです。そしてそれは物語が始まって3分の1(45分)あたりのところで描かれています。
これは、パズーの元気な「表の顔」をしっかり観客に提示した後に、落ち込むこともあるという「裏の顔」を提示しているということです。この2面性の描写が人物としての奥行きとなり、生き生きしたキャラクターを生み出しているのです。

これが『天空の城ラピュタ』で宮崎駿氏が主人公の造形に使ったテクニックです。

では、あなたの物語の主人公は、どんな裏の顔は持っていますか?
それは、物語のどのあたりでどういった経緯で描かれますか?

さあ、考えてみましょう。

ムスカの説得力

続いて敵対者ムスカについて見て行きましょう。
講座ではムスカの印象的な表情をスクリーンショットして29枚のフォトアルバムを作りました。
するとこのムスカという人物もいろんな顔を見せてくれていたことに気がつきます。

これは写真を見ながらでないと解説が難しいのですが、特に印象的だったのは、ラピュタ城の中枢部で飛行石の結晶を前にして古文書を読む時のムスカの横顔です。
「読める。読めるぞ」の場面ですが、あの時羽虫が飛んでいますね。それを手で振り払いながらムスカは自分の調べてきたメモを元に古文書をどんどん読み解いていきます。その時の彼の興奮。この時が来るのを信じて勉強してきた日々を感じさせる、まるで苦学生のような横顔です。

これも実は敵対者の「裏の顔」なのです。
主人公に表と裏の顔があったように、敵対者にも表と裏の顔があります。それをいつどのように表現するか。そしてそれは何のために表現するか。

人間の奥行き。それももちろんです。
ただ、もっと大切なのは、「敵対者の言い分に説得力を持たせていく」ということです。

ムスカは物語の最後、玉座の間でシータに対して

「ラピュタは滅びぬ。何度でも蘇るさ。ラピュタの力こそ人類の夢だからだ」

と言い放ちます。
敵対者には「主人公とは別の目的を持ちそのことが原因で主人公の障害となる」という属性がありますが、敵対者の目的は、ともすると主人公よりも説得力を持つ位の力が必要なのです。そうすることで主人公と敵対者の衝突が劇的葛藤(ドラマ)となり、観客を巻き込む問題提起となるからです。

テーマはよく「作者の伝えたいこと」と紹介されますがそれは間違いです。
テーマとは、この「問題提起」のことなのです。

『天空の城ラピュタ』は、土や風と共に生きるのか、それとも科学で世界を席巻するか、という人類に対する問題提起が、血湧き肉躍る冒険活劇の中で繰り広げられるから傑作なのであり、その答えが未だ出ていないから作品が今なお力を持っているのです。

書き手の皆さんは、この問題提起を支えているのが「敵対者(ムスカ)の言い分」であり「説得力」であることを意識しておかなくてはなりません。

あなたはあなたの物語の敵対者を育てていく必要があります。
それは敵対者の裏の顔をどこで見せるか、本性をどこから明らかにさせるか、言い分をどれだけ強くしていくことができるか、ということです。
あなたの敵対者の目的は何ですか?
それはいつ露見しますか?
どうやって説得力を持たせますか?
意外な一面はありますか?
それはどうやって言い分と連動しますか?
さあ、考えてみましょう。

ドーラ〜協力しない協力者〜

最後は協力者。
ラピュタではドーラですね。
最初は敵対者として登場したドーラが途中から協力者に「ポジションチェンジ」をする。これが本作で使われたキャラクターポジションの応用テクニックであることは前回の講座で触れました。ですので今回はまた別のテクニックについて考察をしていきましょう。

ではここで再び質問です。

Q、ドーラは協力者になってからも「協力しない場面」が2箇所あります。それはどこでしょう?

協力者になってからのドーラですから、あの有名な「40秒で支度しな」の後のドーラのことですよ。
それ以降もドーラはパズーを助けない場面が2箇所あります。それはどことどこでしょう?
物語を思い出しながら考えてみて下さい。

では答え合わせ。

1、シータ救出のために要塞に乗り込む時、爆撃の衝撃で気絶してしまう(協力できない)
2、ラピュタ城についたときに捕まってしまう(協力できない)

この2箇所です。
肝心なところでドーラは協力できていないんですね。
それはなぜでしょう? なぜ宮崎駿氏はそういう選択をしたのでしょうか?
これは小学生から答えが出ましたよ。
「主人公を活躍させるため!」ですね。

肝心な場面で全知全能の協力者が現れて主人公を助けたり、魔法で全てを解決してしまうのは神話や宗教劇の時代まではOKでした。しかし今は現代です。我々が個人の力でこの世界を切り開いていかなければならないように、現代の物語の主人公達は、自分の力で問題を乗り越えていかなければならないのです。
映画版のドラえもんは、肝心な場面でいつも必要な道具を出せませんが、その理由もこういうところにあるのです。

協力しない協力者。

これは劇作の基本テクニックです。
宮崎駿氏は、この基本を元にパズーとシータに活躍の場を与えつつ、ドーラの人間としての奥行きを同時に描き、さらには2回目の協力できない場面では、ドーラをただやられっぱなしにしておかないで、ズボンの中からグレネードランチャーを取り出してパズーに渡す、という描き方をすることでドーラに華を持たせています。この辺りのさじ加減が「さすが宮崎駿!」というところですが、それでもそれらの選択はあくまで劇作の基本技術の上に成り立っているのです。

さあ、あなたは、あなたの物語の協力者にどうやって協力できない状況を作り出しますか?
その中にこそあなたの物語をさらにドキドキワクワクさせるもう一つの道が隠されているはずです。

はい。今回の講座はここまでです。
次回はまた『天空の城ラピュタ』を題材に、「セリフの基本構造」を考えてみたいと思います。いいセリフはセンスで書くのではありません。構造で書くのです。

最後までお付き合いくださりありがとうございました。

伊佐市お話づくり講座

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