観劇後の子どもの本音にアプローチ!『ゲキミテアフタートーク』は試行錯誤を重ね、ペアトーク&カードの使用で誰でも試せる形になりつつあります!

2020年にスタートしたゲキミテアフタートーク、コロナの影響をもろに受けてなかなか実施出来ない時期もありましたが、昨年度からは実施数も増えてきて試行錯誤を重ねる中で「ある形」に落ち着きつつあります。
2023年2月に実施した鹿児島県伊佐市立曽木小学校と、福岡県筑紫野市のちくしの子ども劇場での事例をご紹介します。

目次

そもそもゲキミテアフタートークとは

  • 観劇後の感想文に代わる感想共有の方法として2020年に生まれる
  • 感想そのものを「表現」と捉える
  • 人との「コミュニケーションの場」にする
  • 幼児から参加可能
  • 少人数〜200名くらいまで対応可能
  • 終演後20〜30分程度で出来る
  • 基本の話し合いは2人1組で行うので緊張しない
  • 進行役は質問が書かれたゲキミテアフタートークカードを使用(お試し中)
  • 全体シェアもあるのでみんなで楽しめる

感想ってどうしても「いいコトを言わなきゃ」みたいな雰囲気がありますよね。
子どもはそういう圧力に敏感です。本能的に「大人が求めている言葉」を探ろうとしてしまいます。
劇は人の本音を引き出すための営みですが、感想はどうしても建前に陥りがち。
この矛盾をなんとかできないか。と始めたのがゲキミテアフタートークです。

何を言ってもいい緩やかな雰囲気。
自分の言ったことをジャッジされずにそのまま受け止めてもらえる喜び。
「あの子の意見も聞いてみたい!」 やがて芽生えてくる他者への好奇心。

そんな感想会を目指しています。
その中で生まれてきたのが「ペアトーク」という手法です。

ペアトーク

進行係が「今からゲキミテアフタートークを始めます」と言ったら、まず2人組になってもらいます。

友達、兄弟、親子、先生と。気の許せる相手と2人組に。

ゲキミテアフタートークはこのペアを基本に進めていきます。2人で劇の感想を話すんですね。

自分のよく知る相手と二人で話すわけですし、周りもみんな話しているので注目を浴びることはありません。ですので緊張せずに話すことが出来ます。

でも「さあ、劇の感想を話しましょう」と丸投げしてもそのまま話し合うことは難しいですよね。
そこで進行役は「ゲキミテアフタートークカード」を使います。

ゲキミテアフタートークカード

カードの裏には、こんな質問が書かれています。

Q、劇に出てきたものが一つプレゼントされます。何が欲しいですか? どんなことに使いますか?

Q、劇に出てきた登場人物があなたの家にお泊まりに来ます。誰に来てもらいたいですか? 何をしますか?

Q、劇を観てて思わず心の中で「あ!」と思った瞬間はありましたか? どんな場面でしたか?

Q、大人の事情でこの作品のタイトルが使えなくなってしまいました。あなたならどんなタイトルをつけますか?

Q、あなたは実は役者(人形遣い)です。今日の劇に出るならどの役をやりたいですか? どの場面を演じてみたいですか?

Q、この劇の招待券が2枚当たりました。どう使いますか?

Q、自由質問

この中から進行係が1枚選んでみんなに質問するんですね。

ご覧のように質問は、「正解の出ない」質問になっています。ですから何を話してもいいわけですね。

ペアトークの時間は一問につき大体1、2分位。短めでどんどん進めていった方が子ども達のフットワークが軽くなります。

だいたいみんな話したな〜と感じたら進行係が「せっかくですから今話してたことをシェアしましょう」とシェアタイムに移ります。

シェアタイム

進行係は、「今話してたことを教えてくれる人〜?」と尋ねます。
1度話したことを言ってもらう形なのでハードルが少し下がります。

でも、最初はなかなか手が挙がりません。

この時のために進行係は実は2人組で進行しています。進行係も自分が出した質問で話し合っているわけです。

ですので「じゃあボク達が話したことから言ってもいい?」と話し始めます。

ここからは、ちくしの子ども劇場さんで行った時の記録を見てみましょう。
ちなみにこの時の作品は『かんがえるカエルくん』(前進座)でした。

Q、劇に出てきたものが一つプレゼントされます。何が欲しいですか? どんなことに使いますか?

黒木(進行):虹が出ていた(ように感じた)ので、虹。家に持ち帰り、寝室に飾る。夜も見たい。
西上(進行):鳥の声を出していた道具。何に使うかはまだ決めてない。

かずま(小6):イノシシが来ていた着ぐるみ。気持ち良さそうだから。
あつと(小3):僕もイノシシがかぶっていた布。寝るときに使いたい。
土肥(大人):カエルの鳴き声の道具。ずっと聞いていたい。
りょう(小3):言いたくない。
角(大人):みみず。抱き枕にする。
前田(大人):カエルのゲコゲコ。鳴らしてみたい。
りんこ(小1):ヘビ。お兄ちゃんに対抗するため。

最初に進行係の黒木さんとボクが発言しています。
そのまま発言を募りましたがまだ手が挙がりません。

でも「言ってみよっかなあ」という表情をする子が出てきます。
この時は、それがかずまくん(小6)でした。
「どんなこと話してたの?」と水を向けると答えてくれました。
すると、「あっ!」という感じで、あつとくん(小3)も発言してくれました。

子どもの発言は連鎖しやすいようです。
すると、2人は同じ意見。実は2人が兄弟であったことが分かりました。

次にボクは、あつとくんとペアだったりょうくん(小3)に話を振りました。すると返ってきた答えが「言いたくない」。

もちろんこれもありです。「パスもありだからね〜」と返します。

そうこうすると、他の方(大人)が発言してくれました。

次はりんこちゃん(小1)と目が合います。「あっ、なんか言ってくれそう」と感じたので聞いてみます。すると「……(ぼそぼそ)」。

言ってくれました! でもよく聞こえない。

そういう時は、「じゃあボクにだけ教えてもらってもいいですか?」と近づいていきます。

ふむふむ。無事聞き取れたので、「りんこちゃんの感想、みんなに伝えてもいい?」と許可を取ってみんなとシェア。

それが「へび。お兄ちゃんに対抗するため」でした。会場に笑い声が響きます。

そしたら次の質問へ。今度は黒木さんがカードを選びます。

Q、劇に出てきた登場人物が一人だけあなたの家に泊まりに来ます。誰がいいですか?一緒に何がしたいですか?
黒木(進行):とんぼ。眼鏡をかけあって、ファッションショーをして遊ぶ。
西上(進行):カエル。いっぱいいろんなことを聞いてくるから話し相手になってもらう。お酒を飲みながら。
あゆと(年長):カエル。遊びたい。
ようすけ(年中):とんぼ。飛びたい。
日吉(大人):とんぼ。トンボにくるくるしたい。
りんこ(小1):ウサギ。手なずけて遊びたい。
土肥(大人):やまね。一緒に寝て、モフモフしたい。
かずま(小6):誰にも来てほしくない。
西上:その答え、ちょっとキープさせて!そんな答えが出ると思って次の質問も考えてきました。

さあ、ここで「誰にも来てほしくない」という答えが出てきました。

一見ネガティヴな意見のようにも感じます。でも全く問題ありません。

というわけで次の質問は、「絶対にウチに泊まりに来ないで!って登場人物は誰ですか?」に決定です。ペアトークをしてシェアタイムへ。

あつと(小3):ねずみ。触ると病気になるし、部屋を荒らされる。
りょう(小3):カタツムリ。ベトベトするから。
かんた(小1):へび
はるの(小6)(小6):カタツムリ。ベトベトするから。
たいら(小6):カエル。ずっとしゃべっていないといけないから。
りんこ(小1):カタツムリ。ベトベトする。
日吉(大人):カタツムリ。家中に鍵をかけておきます。
あゆと(年長):みみず。気持ち悪い。
ようすけ(年中):ヘビ。食べられちゃうから。
角&前田(大人):ウサギ。家でピョンピョンされると落ち着かない。
かずま(小6):毛虫。僕は集合体恐怖症&先端恐怖症だから恐い。
土肥(大人):カエル。昼間はいいけど、夜に来られると疲れてるから無理。相手できない。

見てください。次は子ども達全員がシェアタイムで発言してますよ。好きも個性、嫌いも個性。

感想の内容をジャッジする必要はないのです。実はボクも内容の半分くらいしか聞いてません。それよりどんな声で話していたかを聞いています。「本当の音=本音」ですからね。

今回は、登場人物に感情移入を促すタイプの物語ではなかったことも関係して、「嫌い」の感情に意志がこもりやすかったようです。その声が出せただけでいいじゃありませんか。

今の学校教育は子ども達の発言内容に注力しています。
だったら表現活動に身を置く我々は、別の見地から子どもの発育を見守りましょう。

それが「音」。表現の基本は「言葉」じゃない。「音」ですよ。
だって「言葉」よりも先に「声」があったんですからね。あと「姿勢」。「文字」なんてずっとずっとあとに生まれてきたものですからね。

ですから我々人間の表現はまず「声」や「姿勢」に宿るはずなんです。その力を発揮してもらう。発揮できる場所を保障する。
それがゲキミテアフタートークの1番の目的です。

誤解を恐れずに言えば、ボクは、子ども達がゲキミテアフタートークで何を話したかなんて全部忘れてもいいと考えています。でも「楽しかった」ことは印象に残っていて、「また話したいな」って思ってもらえる。そういう経験の積み重ねがその子の元気になれば、それが1番じゃないですか。

ちょっと熱くなってしまいました。こういう熱さや説明は不要ですね。
曽木小の校長先生はたった一言で体現してくれましたよ。

Q、この劇の招待券が2枚当たりました。どう使いますか?
児童 :売ります!
校長先生:メルカリで! 
みんな :(笑い)

シェアタイムの工夫(自戒)

さて、「ペアトーク」「カードの使用」でゲキミテアフタートークは、誰でも試せるものに育ちつつあります。あとは進行係として難しいのは、「シェアタイム」だと思います。

これは自戒も込めて振り返るのですが、シェアタイムで1番大切なのは「進行係が盛り上げる必要はない」ということだと思います。

どうしても人前で話していたら盛り上げたくなります。でも1番盛り上がるべきはペアトークの方です。全員の表現タイムですからね。シェアタイムはあくまでオマケ、くらいに捉えるのがちょうどいいように感じています。

でないと、ついつい「面白い意見」と感想をジャッジしたり、「まだ発言していない人が発言しないといけない雰囲気」を作ったりしかねません。

それよりも進行係としては、ペアトークの時に話しづらい雰囲気が生まれてないか気を配り、もしトークが成立していないペアがいたら、そこに別の人(先生や大人、または自分達)を配置したりしてエネルギーが流れる事に注力した方がいい。

実は、ちくしの子ども劇場の最初の質問で「言いたくない」と言ったりょうくん(小3)は、ペアトークの時に

「カエルくんの使ってた踏み台が欲しい。冷蔵庫のモノを取る時に便利だから」

と話していたことを後でお母さんに話してくれたそうです。うん。やっぱり1番盛り上がるべきはペアトークの時間ですね。(自戒自戒)

ゲキミテアフタートークの感想

  • うれしかった。(年中)
  • たのしかった。(年長)
  • パス。(小3)
  • 久々にお母さんのガチの感想が聞けた。(小6)
  • 兄弟で同じ答えだったから、同じこと考えているんだなーと思いました。この質問の形式とか合評会の参考にします。(大人)
  • 感想を聞かれるのかな? 気の利いたキーワードを用意しなきゃ、などと身構えての観劇を終え話し合いの会場へ。そこでは私の心配は全く無用な時間を過ごしました。引っ込み思案のうちの娘が自分の思いを口にした時はびっくりしました。ただ単純に感想をどうぞでは決して引き出せなかった心の内の数々、みんなで考えてシェアして、結果、劇のアウトプットとなり、かんがえるカエルくんは今までと違った印象で強く思い出される題目の1つになると思いました。(大人)
  • 人と違うことは楽しいと思った。(大人)
  • 感想文ではなく対話ベースの感想会であることが良かった。自分自身も楽しめた。(教員)
  • コミュニケーションを軸に作られたこのプログラムはこれからの学校教育とも親和性が高いと思います。一方でシェアタイムで意見をこぼさないことがポイントになるとも思いました。今はタブレットが1人1台あるので、その場で感想を書き込み、みんなで共有することも出来きます。大きな学校の場合ではそうしてみたいですね。(教諭)

ゲキミテアフタートークのこれから

私は、このゲキミテアフタートークを「特別コーディネーターが行かなくても自分たちで出来る」ものに育てていきたいと考えています。

子ども劇場(おやこ劇場)なら劇場の人達で、学校なら学校の先生で、進行係ができる形です。もしくは、創造団体の人達が、上演後に自分達でやっちゃう。厳密に言えば感想は観客のものなので前者の方が理想なんですが、それでもこれはこれで面白い。

質問カードを作ったのもそのためです。
本当は、質問カードがなくても、劇を一緒に観てその場でみんなに聞いてみたいことを聞けばいいのですが、それだと専門のコーディネーターじゃないとちょっと難しい。だったら、どんな作品でも話せるカードを持っていて、その上で「あ、これも聞いてみよう」と思えることが思いつけば聞いてみる、という形にしておくことがベストだと今現在は考えています。

というわけで、「もう少し質問カードを増やす」が今後の課題。

質問カードが増えれば、きちんと業者に発注してゲキミテアフタトークカードを作成したいと考えています。でもそうなると個人の活動を越えているので、ここからは協力者を探して一歩ずつしっかりやっていきたいと思います。

これ以上はまだ先の話ですので今日はここまで。

ゲキミテアフタートークは現在、児演協の助成金事業で実施したり、子ども劇場の自主事業として実施したりする他に、人形劇団ひとみ座さんの『はれときどきぶた』チームは、学校公演の時は、終演後に俳優達で実施していますし、人形劇団クラルテさんの『トクントクンー命の旅ー』チームの皆さんは、ゲキミテアフタートークとはまた別のトークシェアで子ども達の感想シェアを上演とセットにされています。

それらの知見、経験も合わせてゲキミテアフタートークを育てていきたいと考えています。

ちなみにこれまでで1番回数を重ねている鑑賞団体は鹿児島県子ども劇場協議会の皆さんで、今後も実施予定。そちらの事例もまたご報告しますね。

というわけでゲキミテアフタトークに興味のある方はぜひお声かけくださいね。
子ども劇場(おやこ劇場)のみなさん、学校の先生方、創造団体のみなさん(もちろん個人も)、ぜひ一緒にやっていきましょう!

長文を最後までご覧いただきましてありがとうございました!

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