脚本は山で書く。秩父の山に逃げた二泊三日ソロキャンプの執筆記1

時々「どこで脚本を書いてるんですか?」と聞かれる。

「どこでも書けますよ。マックでも書けます。」……これはノッテいる時の話。

「家ですね。洗濯を済ませて珈琲を挽いて。」……これもまだ健康な時の話。

「国会図書館です。背筋が伸びる感じがありますからね。」……場所に緊張感を求めるようになったらやばい兆候。

「カフェを転々としながらですね。半日で三軒は回りますね。」……書けないのを店のせいにし始めたらもうアウト。

「歩きながらですね。アイデアは体を動かしながらの方が浮かんでくるんですよ」……実は立ち止まったら泡のように消えている。情緒不安定の始まり。

「山ですね。人と会ってたら書けませんよ。あと文明からも出来るだけ離れた方がいいです。」……末期症状。

というわけで行ってきました。バッグ背負って秩父の山へ。車は持ってないので鉄道で。

いやあ、こういう時に理解力のあるパートナーがいてくれるって素晴らしい。書けなくて悶々としてるボクに「山籠りでもすれば?」と提案してくれたのはパートナー。さすが同業者。分かってる! 荷物リストも一緒に作ってくれました。

荷物リスト

  • テント
  • マット
  • 寝袋
  • トング
  • 炭(現地調達)
  • 薪(現地調達)
  • 新聞紙
  • 軍手
  • ティッシュ
  • サランラップ
  • 米(現地調達)
  • オリーブオイル
  • 小麦粉
  • 酵母
  • タオル
  • バスタオル
  • 虫除け
  • 蚊取り線香
  • ライト
  • ランタン
  • マッチ
  • 毛抜き
  • 梅干し
  • 包丁まな板セット
  • 鍋×2
  • 胡椒
  • 箸と皿
  • 着替え
  • ロープ
  • コップ
  • コーヒー
  • 本一冊まで
  • 辞書

結局「辞書は置いていきなさい」ということになった。ボクが辞書に逃げる(書けなくなって辞書を読み始めてしまう)ことをよく知っているのである。もちろんパソコンは置いていく。え? じゃあなんで書くの? ということになるが、それは「ノートと鉛筆」があれば問題ない。10年前までそうしてたんだから。

向かった先は、秩父橋立川キャンプ場。車なしでいける静かなキャンプ場ということで検索したらここが出てきた。思い立ったが吉日。翌朝義父からテントや寝袋を貸してもらい、昼過ぎには現地へ到着。

誰もいない。7月末で夏休みには入っているが今年はまだ梅雨明けしていなかったし、平日だったからだろう。好きな場所にテントを張れたが、ボクは秩父鉄道の橋が見える場所を選んだ。秩父鉄道は一時間に一本程度。時計の代わりになると思ったからだが、人恋しかったのかもしれない。

 

テントも張ったことだしいざ執筆! とはならない。辺りを散策している内に時間が過ぎてしまった。日が暮れる前に火を起こさないと。

火を起こしているとヒグラシが鳴いて夕暮れがやってきた。山で迎える夕暮れは寂しい。昼の暑さや太陽光が見えなくさせていたものが夜の闇とともに姿を表す。1人であること。時間は前にしか進まないこと。町にいると電気をつけてしまうからこの感覚は忘れがち。自分が今持っているもの全て、人も物も記憶もいつかはなくなっていく。じゃあなんで今を生きるの? いやが応にもそんなことを考え出す。その時、蛍が飛んだ。そういえば、このキャンプ場はこの時期でも蛍が出るとは聞いていたが、それは本当だった。不思議なもので、蛍の光を見ていると、さっきまでの寂しさはすっかり姿を消してしまった。夜がやってきたのだ。自然は場面転換が上手いなあ。

山の夜はすることがないので、食い残したご飯が鍋の中で腐らないように梅干しを放り込んで眠った。まだ8時すぎだったと思う。夢の中で雨がテントを叩き始めたが気にしない。家に帰る選択肢なんてない。ここで書けなければ絶対に脚本は書けないのだから。

つづく

 

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