上演前に脚本公開!! 『夢応の鯉魚〜雨月物語より〜』カフェ公演用の戯曲の公開と見どころのお知らせ

府中のイベントFÊTE FUCHU TOKYO 2018〜暮らしと表現の芸術祭〜に参加する作品の脚本が完成しました。上演に先駆けて脚本をブログで公開します。

この脚本は、江戸中期に書かれた上田秋成の小説『雨月物語』を、役者・綾香詳三氏と音楽家・大和龍弦氏の二人が府中市のカフェで上演することを念頭に書かれたものです演出も務めますのでカフェでしかできないことを随所に取り込んだ脚本執筆を心がけましたが、その部分は実際の公演のお楽しみということで割愛させていただき、ここではお話の内容に絞って公開したいと思います。
上演時間25分程度の小品です。どうぞお楽しみください。

『夢応の鯉魚(むおうのりぎょ)』

上田秋成作 西上寛樹脚色

登場人物

興義(こうぎ)…三井寺の高僧。天下に名を轟かせる絵師。魚の絵のみを描く。
文四(ぶんし)…漁師。興義の描く魚を釣る。
老師…水の神のみことのりを伝える者。大小あまたの魚を引き連れている。
他、近江商人・檀家の筆頭平の助(たいらのすけ)・料理人・語り手など

出演

綾香詳三…興義、文四、語り手1 他
大和龍弦…演奏、老師、平の助、近江商人、語り手2 他

 

 

開演時間になって語り手登場。
音楽。

 

語り手1       むかし、近江の国三井寺(みいでら)に興義という高僧がいた。絵に巧みなるを以てその名は世に知られていた。この興義、いつも描いてみせるのは水に遊ぶ魚の絵。花鳥山水(かちょうさんすい)をもっぱらとする世間の流れに与(くみ)することよしとせず、仕事の暇を見つけては、湖に小舟を浮かべ、漁師の文四から魚を買い上げ水に放ち、魚の泳ぎ遊ぶのを見ては描く。その詳しい筆運びは、墨を落とさぬ紙の余白にも水の流れを感じさせた。またある時は、絵に心を凝らしてそのまま眠りについた。夢の中で興義は水に入り、大小の魚と戯(たわむ)れ心を踊らせる。そして目を覚ますとその様子を一気に描いた。こうして出来た絵を興義は自ら「夢応の鯉魚(むおうのりぎょ)」と呼んだ。

 

絵を眺め満足そうな興義の様子キセルを取り出して一服。

 

弟子         興義様…ここは禁煙でございますが…

興義              (気にしない)

弟子         ここは禁煙…

興義              (睨む)

弟子    ……

語り手2       興義の名は、その型破りな絵とともに天下に聞こえ、近江商人たちはこぞってその絵を欲しがった。

 

近江商人甲・乙(こう・おつ)が登場。

 

甲                 ああ〜欲しい!

                 興義さまの絵が欲しい!

二人             夢応の鯉魚の絵が欲しい!

                 あ、興義さまだ。

                 お願いしてみよう。

二人              興義さま!

興義             む?

                 その絵を譲っていただけないでしょうか?

乙                 私は、百万円出します。

甲                 あ、ずるい。それなら私は二百万円出します。

                 では私は二百一万円。

                 ならば私は三百万円。

乙                 三百一万円。

                 お前せこいな。

                 うるさい。

二人              とにかく、その絵を譲ってください!

興義             ならぬ。これは仏門に帰依(きえ)する法師の絵。惰眠をむさぼり、生あるものを食らう凡俗の衆にどうして進ぜることが出来ようか。

                 ぼ、凡俗…

興義           文四、片付けなさい!
語り手1 と、興義が命ずれば漁師の文四、「おっ!」と、まかり出て、客を門外に突き返す。

甲乙   ああああ〜

 

甲乙、退場。

 

語り手1       文四が再び戻ってくると、興義の姿はそこになく、魚の代金と思われる幾らかの金が裸のまま中庭にばらまかれていた。文四は金を拾い集めながら考えた。
文四    興義さまは今頃、一人襖(ふすま)の向こうで魚たちと戯れていらっしゃるのだろうなあ。

 

音楽。

 

語り手1       ある晩のことだ。この興義、ふと病にかかって床に伏せること七日、熱に細って苦しさ耐え難く、涼しい風にでも吹かれたら少しは熱も覚めようかと、杖を力、月明かりを頼りに門を出ると、どういうことか病も忘れたように、例えば籠(かご)から放たれた鳥のように軽々とした気持ちになって、山となく里となく歩を進め、やがて行き着いたのは、金色の朝日を跳ね返す琵琶湖のほとりであった。

 

音楽。光に包まれる興義

 

興義        ここよここ。ここに水を浴びて遊ぼうもの
語り手1 興義は浮かれ心地に、衣を脱ぎ捨て、身を踊らせて深みに飛び込み、あちこち泳ぎ巡って戯れた。しかし所詮は人の体。
興義   いくら魚の心になろうとしても、体が邪魔して遊べぬわい。
語り手1 興義が呟いたその時だ。突然風が吹き荒れ、水面は渦を巻く。やがて水が割れ、水底(みなそこ)より大魚にまたがる老師があまたの魚どもを引き連れ浮かび上がってこう言った。

 

魚の老師、登場。

 

老師              水の神のみことのりじゃ。そなた放生(ほうじょう)の功徳を積み、今水に入って魚の遊びを願う。よって金鯉の衣を授けて魚の国の楽しみをさせようぞ。鯉とフナとオオクチクロマス、どれがいい?

興義              え?

老師              鯉とフナとオオクチクロマスどれになりたい?

興義              え? 最後のなんですか? オ、オオクチ…

老師              オオクチクロマス。ブラックバスじゃ。

興義              じゃ、じゃあ、鯉…

老師              よろしい。しかし、餌の匂いに迷って、釣りの糸にかかり、自ら身を滅ぼすなよ。

 

老師、退場。
興義の体が魚になってゆく。

 

語り手2       興義の体には、いつの間にか金光(きんこう)ピカピカと鱗が生じた。一匹の魚と化したのである。興義は今、琵琶湖を泳ぎ駆け巡る。

 

琵琶演奏。以下は歌。

 

まず長良(ながら)の山おろし、立つ浪(なみ)に身をのせて、
志賀の入り江の汀(なぎさ)にあそべば、かちで行き交うひとびとの、裳すそを濡らす景色にびっくり。
比良(ひら)の高山の影うつる水底深くもぐろうとすれど、
堅田(かただ)の漁り火のかくれなく、きらめく方に誘われるのも魚ごころか。
真夜中の水のおもてにやどる月は、鏡の山の峰に澄み、
湊湊(みなとみなと)にかげる隈もなくてあざやか。
沖の島山、竹生島(ちくぶじま)、波にゆらぐ朱塗りの垣には目もくらむ。

 

興義             近江八景(おうみはっけい)、絶景かな! 絶景かな!

語り手2       魚となった興義は、勝手気まま。陽暖(ひあたた)かなれば浮かび、風荒ぶれば千尋の底にひっそりと遊んだ。

興義           ああ、魚は最高だ。

語り手2     しかしそれもつかの間、

興義           …腹が減った。

語り手2     にわかに物欲しくなり、あちこちをあさり求めたが、

興義           食うものがない?

語り手2     興義、泳ぎ狂ってゆくほどに、やがて頭上から一筋の光り輝く糸がするすると降りてくるのを見た。

興義           ん?

語り手2     漁師の垂れた釣り糸であった。糸の先には、香ばしい餌の香り。

興義           ああ…

語り手2     思わずパクリと飲み込みそうになるが、

興義           いや…これは罠に違いない。魚の老師の戒めもある。それに、仏門に帰依する身とありながら、魚の餌に心奪われるとはあさましい。恥ずべし! 慎むべし!

語り手2     興義は尾びれを返して立ち去ろうと試みるが、釣り人の方も魚心を得たものか、糸をたぐってはびくんびくんと餌を揺らし、辺り一面に再び餌の香りをばらまく。

興義         ムウ …もう我慢ならん。いいだろう。食ってやろうではないか。しかし針は食わんぞ。愚かな釣り人め。この興義に知恵比べで勝てるものか。それ、パクリ!

語り手2     しかし釣り人も腕に覚えのある者。ピクン、というわずかなアタリを見逃さない。すかさず天に向かって竿を合わせた!

興義           アイタッ!

語り手2     釣り人が素早く糸を引くと興義の身は宙づりに、バタバタと水しぶきをあげて漁師とご対面。

興義           あ、文四!

語り手2     それは漁師の文四であった。

興義           待て文四! わしだ! 興義だ! 離せバカ! やめろー

語り手2     しかし、もちろん文四にはその声が届かない。さっと籠を構えると、手早く興義を中に押し込んだ。

 

静寂。
二人の語り手は、籠に聞き耳を立てる。
語り手1は、興義として小さな叫び声を当てる。
「だ〜せ〜」

 

語り手1       え?

語り手2       え? 聞こえた?

語り手1       聞こえたでしょ。

語り手2       ちょっ、もう一回。

 

二人、聞き耳を立てる。
「だ〜せ〜」

 

語り手1       ほら。

語り手2       君でしょ?

語り手1       はい……(仕切り直して)とまあ、こんな具合で興義の叫びは誰にも届かず、文四は善根ほどこしたように上機嫌で釣り上げた魚を持って雇い主の元へ馳せ参じた。
文四    興義様! 興義様! おあつらえの魚、持ってまいりました。目の下三尺、近頃珍しいとびきりの獲物でございます。

語り手2       ん?

語り手1       襖の向こうより現れたのは、檀家の筆頭平の助(だんかのひっとうたいらのすけ)であった。

平の助          文四じゃないか。どうしたこんなところで。

文四              平の助さまこそどうしてこちらへ?

平の助          弟の十郎の祝言(しゅうげん)の日取りが決まってな。そのお知らせにやってきたが、とんだ無駄骨だ。興義様はおらん。

文四              え? どちらへ?

平の助          知るか。(文四の持つものに気がつき)うん? 文四、なんだそれは?

文四              はっ、コイを一匹釣り上げて参りました。

平の助          や、これはなんとも太ったコイだ。

文四              あっしもこんなに立派な…偉そうなコイは初めて見ました。琵琶湖の主かも知れません。

平の助          琵琶湖の主… 文四、この魚わしに売れ。

文四              え? なぜ?…

平の助          なぜって、食うからに決まっておるだろうが。

文四              食う? なりませぬ。

平の助          なぜならん?

文四              これは、もとより興義様が絵に認(したた)めるための魚でございまして食い物ではございませぬゆえ…

平の助          バカを言うな。こんなに旨そうなコイ、食わずにおっては仏様のバチが当たるわい。

文四              しかし興義様が…

平の助          お前が黙っておけば知る由もなかろう。だいたい興義様には困ったものなのだ。夢応の鯉魚などと絵に執着して寺の仕事をおろそかにし過ぎる。これも檀家の務め。それ、もらっていくぞ。

文四              あっ

平の助          料理人! これをなますにして出せ!

料理人          ヘエ!

語り手1       驚いたのは当の興義だ。籠から出されて、やっと陽の目を見たかと思えば、そこにはまな板包丁を持って支度(したく)にかかる料理人の姿。
興義    おい! 何をする気だ。オレを三井寺の興義と知っての振る舞いか!
語り手1  凄んで見たところで言葉は通じない。それどころか、酒に酔った平の助、碁を打つ十郎、ヨチヨチと桃の実を頬張る幼い帰守(かもり)が集まってきては大盛り上がり!

 

琵琶演奏入る。

 

興義        離せ! やめろ! やめてくれ!」
語り手1   料理人、容赦なく、左手の指にて興義の両まなこを強く捉え、これをまな板に押し付けて右手の包丁を取り直す!
興義   もういい! 寺に、寺に帰してくれー」
語り手1      刹那、料理人、ピタリと包丁を当てた!
興義   わっ!

 

弾ける琵琶の音。静寂…

 

弟子        興義さま。興義さま。

語り手1   興義が目覚めると、そこにいたのは、他でもない興義の弟子たちの姿であった。聞けば七日の間、寝付いた興義を必死に看病していたと言う。

弟子        三日前に興義さま、たちまちおん眼(まなこ)を閉ざされ、おん息耐えて、むなしくおなりなされました。ただお胸のあたりがほんのり温かなので、もしやと存じ、我々一同嘆きの中にもまだ一縷の望みを抱き、棺に納めることはばかり、こうしてお枕元に見守っておりました。

興義              そうか。オレは死んでいたのか。

弟子        しかるに、今にわかにおん手足が動き出して、むっくりと起き上がったご様子は、お顔の色も晴れ晴れとして、蘇りとはまさにこの事。もうおん悩みはございませぬか?

興義              悩み? こうして無事生きて帰ってこられたのだ。この後に及んで悩みなどあろうものか。

弟子         ああよかった。誠によかった。

興義              そうだ。一つ頼みがある。誰か平の助殿の館に向かってくれ。おそらく助殿の弟、十郎殿の婚約を祝って酒宴が開かれているところだ。そこに取れたての魚が一匹、今まさになますにされようとしている。急いで行ってその魚を水に放してやってくれ。詳しい話は後だ。さあ急げ!

語り手1       弟子数人、半信半疑ながらも平の助の館に急ぎ、様子いかがと眺めれば、なるほど師の言った通り、酒宴たけなわの景色の中、今まさに一匹のコイが料理されようとしていた。弟子たち、それを買い取り、水に帰した。これにより、興義の病はすっかり癒えた。この世にも奇妙な物語は、たちどころに人々の間に広まった。

 

近江商人甲・乙が登場。

 

                 聞いたか聞いたか。

                 聞いたぞ聞いたぞ。

                 ついにあの興義さま、魚になってしまわれたそうだな。

                 命拾いはしたそうだが、一体これからどんな絵をお描きになさるのか、ますます目が離せないぞ。

                 ああ〜欲しい!

                 興義さまの絵が欲しい!

二人             夢応の鯉魚の絵が欲しい!

 

甲・乙、退場。

 

語り手1       しかし、興義はそれからというもの一切絵を描かなかった。そして、人が変わったように寺の仕事に精を出した。……興義はその晩年、夢応の鯉魚の絵を持ち出し、琵琶湖の水面に向かい、今は別れと橋の上からこれを散らした。

 

興義絵を水面に放つ。音楽。

 

語り手1       すると、絵の中の魚は、紙を離れ絹を離れ、琵琶湖の水に遊んで消えた。
このゆえに、興義の絵は世に伝わらない。

 

音楽。
物語がおさめられて演者達、礼をし終演の運び。

 

見どころ

語り芝居

この物語は、俳優綾香詳三さん(写真左)と琵琶奏者大和龍弦さん(同・右)が二人だけで演じます。

10以上にもなる登場人物を、二人が衣装を着替えることなく演じ分けていくのが実は大きな見どころ。本作は演者がセリフだけでなく、地の文を読み、楽器を奏で歌をうたい、時に舞いながら物語を立ち上げる「語り芝居」というスタイルを取っています。
語り芝居への挑戦は『はれときどきぶた』『スーサイドショップ 』でも行ってきたことですが、今回は普段から語り芝居を中心に活躍し、地唄舞の研鑽も積まれている綾香詳三さんと、琵琶という古典楽器の演奏者でありながら、新しい試みにも快く挑戦してくださる大和龍弦さんとのコラボレーションで、新たな世界を切り込みます。なんと大和さんは俳優初挑戦! それなのに、私の無茶振りで一部「人形劇」にも挑戦していただいています。人形劇と言っても普通の人形は使わず、コップを使っての人形劇になります。だってここはカフェですから。

カフェという空間(会場)

上演場所が劇場ではなくカフェであることも本作の大きな見どころです。冒頭でも申し上げました通り、演出としては本作を「カフェ公演ならではの工夫」で彩ってお届けします。飲食不可の劇場公演とは違い、カフェという空間で、美味しいコーヒーや紅茶を飲みながらリラックスして観劇していただけることも、本作の大きな魅力です。それは、FÊTE FUCHU TOKYO 2018〜暮らしと表現の芸術祭〜の、

東京多摩地域、府中に暮らし製作するアーティストが、積極的に地域に関わり、地域の中に作品発表の場を作っていこう

というコンセプトそのものでもあります。
演劇作品は、芸術の枠を超えて「地域のコミュニティ」にもなり得るはずです。演劇にこれから求められるであろう新しい可能性を、本作を通じてみなさまと考えられたらと思っています。

会場となるのはこちら
素敵な空間カフェサンク(自家焙煎珈琲の店)

 

プログラム

本作は、『夢応の鯉魚』だけではございません。総合タイトルを『夢幻』と題し、他に近代日本の文学作品や古典作品を豊かな語りの中で堪能していただけるプログラムをご用意しました。

一日目(12月1日)

一部
『夢応の鯉魚』(二人による語り芝居)

ティータイム

二部
『夢十夜』夏目漱石 (綾香詳三一人語り)
『逢坂の月』古典  (大和龍弦琵琶弾き語り)

二日目(12月2日)

一部
『夢応の鯉魚』(二人による語り芝居)

ティータイム

二部
『山月記』中島敦 (語り…綾香詳三・演奏…大和龍弦)

両日とも時間は16時〜17時30分。

料金1,000円(フリードリンク付き)

府中駅前には武蔵国の守り神を祀った大國魂神社があり、その周りには江戸時代から続く老舗の和紙屋さん(紙よし村)や、府中の地酒の銘柄・「國府鶴」を置く野口酒造店がございます。すべて本作の上演が行われるカフェサンクさんの徒歩5分圏内です。この機会にぜひ府中探索の1日をご予定されてみてはいかがでしょうか?



※「紙よし村」さんは、日曜日は定休日になりますのでご注意ください。

お申し込み先

『夢応の鯉魚』(『夢幻』)申込先は、090-4626-9802(主催者)もしくは、
西上(090−6154−4745 info@amano-jaku.com)までご連絡ください。

 

 

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