姪っ子『はれぶた』観劇記

久しぶりに姪っ子のことを書きます。(ブログ自体が久しぶりなのですが

春休みで、姪っ子家族(義姉と3人の子ども達)が沖縄から遊びに来ています。3月29日と30日の二日間、母と長男は富士山の自然学校へ。長女は原宿へ買い物に行ったり、友達とディズニーランドへ行ったり。というわけで一番下の姪っ子(6歳。この春小学一年生)はボクと過ごすことになりました。その時に『はれぶた』を観ての姪っ子の反応が面白かったと言いますか、「ああ、子どもはこういう風に劇を観ているのか」と改めて考えさせられたので、ちょっと頭の中で整理する意味も含めて書いてみようと思います。

目次

「はれぶたとは」

昭和末に一世を風靡した児童書『はれときどきぶた』の略です。著者は矢玉四郎さん。人形劇団ひとみ座がこの春この本を人形劇化しました。ボクは脚本·演出を担当しました。詳しくはひとみ座ホームページへ。

(本当は、当ブログでも作品づくりの過程などをご紹介できたらいいなあと思っていたのですが、稽古場に入ったらそんな余裕は全くなく、今の今までブログをほったらかしにしてしまいました。申し訳ございません!)

「2回の観劇」

姪っ子は、2回『はれぶた』を観ました。

1回目は、3月28日の午前に家族揃って。2回目は、29日の夜にボクと二人で。本当は2回観る予定はなかったのですが、ボクはなるべく多く本番を観ておきたいのでその旨を相談したところ快諾してくれました。遊園地で遊びまくった後の最後の観覧車の中で相談したのが良かったのかも。ただこの時点で『はれぶた』の話はほとんど出ず。観劇後の反応が見え始めたのは、帰りの電車からです。

「姪っ子日記を書く」

夜公演を観た帰り、電車の席につくやいなや、姪っ子はカバンから手帳と筆箱を取り出しました。そして「がむくん、今日何日?」と聞きます。(姪っ子たちはボクを「がむくん」と呼ぶ)「29日」と教えると、何かを書きつけています。姪っ子は最近字を書けるようになりました。先日手紙のやり取りをしたばかりです。しばらくすると「出来た」と言って見せてくれました。罫線とキャラクターが薄く印字されたメモ帳に姪っ子が書きつけたのは、今日の出来事でした。姪っ子は日記を書いていたのです。

「2109うにちもつよび きょうわゆえんちにいきました」

これ、読めますか? 読めますよね。日付が暗号のようになっていますが、れっきとした「29日」、木曜日の「く」が鏡文字で「つ」に、「今日は」の「は」がお約束のように「わ」になっていますが、きちんと日記になっています。そして本文の下には、二つの顔。どうやらボクと自分を描いたようです。ただ納得いかないのか、消しゴムを取り出してゴシゴシ消して書き直し。「上手に描けてるのに」と言っても聞きません。「利発な子だなあ」と笑っていてふと気がつきました。これ、『はれぶた』の主人公、畠山則安の真似じゃないかと。

「はれぶたのストーリー」

ここでちょっとだけ『はれぶた』のストーリーを確認しておきましょう。昔読んだけどウル覚えという人も多いと思いますので。『はれときどきぶた』は、タイトルの示す通り、雨の代わりに空から豚が降ってくるという奇想天外な物語です。そのきっかけになったのは、主人公畠山則安の日記帳です。則安(小3)は、毎日日記をつけているのですが、その日記をお母さんに見られてしまい、その腹いせにデタラメの「明日の日記」をつけ始める、というのがこの物語の起点。「トイレに大蛇が出た」とか「お母さんが鉛筆を天ぷらにした」とか「金魚があっかんべーをした」などと、則安は日記帳にデタラメを書きつけますが、なんと、そのデタラメが全部本当のことになってしまうのです。しまいには「はれときどきぶた」と書いた内容まで本当になってしまい、則安は大慌てというのがストーリー。思い出していただけたでしょうか。
とにかく、「日記」が本作のキーアイテム。ですから人形劇の『はれぶた』でも、日記を書く場面は、一つの人形に二人の人形遣いがついて、細かな機微を表現するよう努めいてます。書くための鉛筆の使い方はもちろんのこと消しゴムの使い方も則安の心境を表す重要なアクション。劇中では、則安が消しゴムを使ってノートに書きつけた字をゴシゴシ消す場面が何度も出てきます。姪っ子は、これを真似をしているんじゃないか。そのことに気がついた時にもう一つのことに気がつきました。

「っていうか日記書いてる!」

そう、姪っ子にとってこれは初めて書く日記だったのです。

「観劇後の行動」

電車には松本美里も乗っていました。ひとみ座の女優であり、ボクのパートナー、姪っ子のおばに当たります。(姪っ子は松本美里の姉の娘)そして、『はれぶた』では主人公則安とその妹のたまちゃんを一人二役、人形二体持ちで演じています。その彼女曰く、姪っ子は終演後舞台に残って「日記帳」と「たまちゃん」に興味を示していたとのこと。他に子どもが興味を引かれそうな人形や小道具は沢山あるのに、「そこなんだー」と思ったそうです。人形劇でしか出来ないギミック満載の小道具より、姪っ子は今自分にとって最も身近な「文字を書く」という行動の発展系である「日記を書く」ことに興味を持ったということでしょうか。それがそのまま形となって現れる。言葉ではなく体を使ってダイナミックに観劇体験を語ってくれた瞬間でした。そして翌日も姪っ子はボクたちを驚かせてくれました。

「セリフ·立ち位置丸暗記」

30日の午前のことです。昨日お金を使いすぎたためにこの日は家の近くで過ごすことにしました。その時姪っ子から「がむくんが昨日のげきのお話書いたんでしょ?」という質問が。「お話っていうか脚本ね」と答えると「じゃあやって」と催促。ボクは人形遣いでも役者でもないので演技は出来ないのですが、姪っ子の前でなら、なんとなくできる気がして台所のグラスや新聞紙やティッシュ箱を使ってオブジェクトシアターのようなスタイルで『はれぶた」を再現しました。すると姪っ子は、舞台上で起こった事を本当に事細かに覚えている。オープニングの歌が終わって、演者がビーズのカーテンを開いて、洗濯物を干そうとしたらそこに絵が描いていて、洗濯物同士重ねると絵が繋がり一枚の背景になる事など、人形劇に入る前のこちらの一つ一つの動作を本当によく覚えている。なので、ボクが間違えると「え? 違うよ」と指摘されました。いや、一応ボク演出なんですけど…

セリフも本当によく覚えてました。例えば冒頭の則安と妹のたまちゃんの場面。

たま  なにしてるの?

則安  日記

たま  …

則安  日記っていうのは、その日にあった事を書いておく事

たま  ふーん

則安  お前見ても意味ないし

たま  (見る)

則安  字、読めないだろ?

たま  たまちゃん、じ、よめるよ

こういうなんでもないようなセリフを丸ごと覚えているのです。そして覚えているのは、セリフだけでなく立ち位置もひっくるめての事でした。
30日夕方、上演を終えた松本美里が帰宅し、夕ご飯までの間、姪っ子と遊んでいたのですが、姪っ子が突然松本に「何してるの?」とくっつきました。松本は最初「あおちゃんと遊んでるよー」などとおどけていましたが、姪っ子は「何してるの?」と質問を繰り返します。僕も最初ぽかんとしていましたが、実は姪っ子の問いかけは姪っ子としての言葉ではなく、たまちゃんとしてのセリフであることに気がついたのです。そして、姪っ子は松本に甘えて近づいたのではなく、劇中の則安とたまちゃんのポジションを再現していたのでした。
松本が早速則安のセリフとして返答すると、上記のやりとりが見事にリプレイされました。その位置どりの完璧なこと。これには本当に驚かされました。くっついたり離れたりのタイミングが同じだっことも驚きですが、まだ右左が分からない姪っ子が客席から見ると反対になるはずの舞台上の位置どりも完璧にこなしているではありませんか!?
たった2回観ただけでこんなに芝居が中に入る役者なんていませんよ。それもただの真似ではなく、たまちゃんの間と呼吸でしっかり存在している。

「子どもは登場人物と友達になっちゃう」

「観るのではなく、世界に入っちゃう」

とは、児童演劇と長年関わってきた方のお言葉ですが、まさにそれを目の当たりにした瞬間でした。大人とは全く違う脳みその使い方をしているとしか思えません。その中では奇跡のような伝達がある。劇と子どもたちとの間に深い交信がある。こういう瞬間に児童演劇に携わっている事を心から嬉しく思います。だって人間と想像力の関係の核心をつくような大きな謎に直接関わることが出来る仕事なんですから。

そして劇の素晴らしいところは、作品と観客は1対1ではないことです。子ども達は、みんなで一緒に劇を観ています。劇の世界に入り込んでおきながら、何か面白いことがあったら、親や友達と目を合わせて共有し、また舞台に顔を向ける。劇の世界と現実の世界を軽々と行き来しながらそこで起こる全てを「体験」します。

姪っ子は『はれぶた』一回目の観劇の時、お兄ちゃんと隣り合って座っていましたが、劇場に来るまでの間にケンカをしたので、最初は話をしませんでした。それが芝居が始まってしばらくすると、もう顔を見合わせている。その様子を後ろのお母さんとお姉ちゃんが見て笑っている。笑われたことに気がついて姪っ子は顔を後ろに向けたでしょうか。ボクの席からはその様子は見えませんでしたが、もし振り返っていたら今度はお母さん達と目が合う。そのやりとりをくり返す内に今度は周りの子ども達、大人達とも目が合うようになるでしょう。知らない大人が笑った瞬間にその人を見る。舞台上では自分の知る限り笑うような場面がないはずなのに…「ここ笑うところなんだろうか…」そういう視点で舞台に視線を戻す。これも全て演劇体験。

演劇がダイナミックな体験であることは知っていたつもりです。そのために『はれぶた』の客席はいつも明るく設定しています。暗くしてしまっては、せっかくのダイナミックな体験を逃すことになってしまうからです。でも、ボクたちが思っていたより、姪っ子の体験はさらに深く、広く、そして伸びやかでした。

「この劇を通じて子ども達に何を伝えたい?」

そんな問いかけなんて、軽々と吹き飛んでしまうほど子ども達はダイナミックな世界を生きています。もちろんテーマへの考察は必要。芯がなければ創作はできません。

しかし、作品を形づくるある段階で、そんな言葉にできる思考の世界から飛び出せないことには、本当の児童演劇にはならないんだと今回改めて思い知らされました。

姪っ子含め観客席に座る子ども達が、ボク達の仕事のハードルをどんどんどんどん上げてくれます。
これはやるしかない!

『はれときどきぶた』2018年3月24〜31日(横浜STスポット)は、おかげさまで全日程ほぼ満席の状態で初演を終えることができました。そして多くの方々の感想を伺うことができました。いただいたご感想・ご指摘、そして全12ステージの本番のダイナミックな反応を踏まえてより良い作品になるよう育てていきたいと思います。

次回上演は8月1日東京オリンピックセンター(参宮橋)の「子どもと舞台芸術大博覧会in Tokyo」。

その次は、子どもえんげきさいinきしわだ(8月後半)を予定しております。
お近くの方はぜひご来場ください。そして、子ども達の反応、とりわけ体の発するダイナミックな反応を一緒にお楽しみいただければ幸いです。

※写真はひとみ座スタジオでの試演会の様子

関連記事

※その他アカウントはこちらから 

テキストのコピーはできません。