ヤマネの話 ~甥っ子姪っ子と~

この6日間、沖縄から甥っ子と姪っ子(9歳と6歳)が遊びに来ていました。
三日目からお母さん(義理姉)も合流しましたが、最初の二日間は子供達だけ。なので夜は一緒に寝てました。
一日目の夜、部屋の電気を消すとお兄ちゃんの方から、

 

「がむくん(僕のあだ名)、こわい話して。」

 

というお願いが。
妹は「だめー。面白いやつ!」と叫びながらタオルケットをかぶってくっついてきます。まんざらでもない様子。

 

「じゃあ、ヤマネの話する?」

 

と、切り出しました。本当は、そんな話ありません。固有名詞を出せば、何か思いつくかなあと、デタラメを言ってみたのです。ヤマネは、最初に浮かんだ知人の名字。でも山根さんの話をするわけではなく、ただ名字を借りただけです。

 

「ヤマネって中学校、自転車で通ってたでしょう?」

 

なぜか、疑問形で始めてしまいました。あとで考えると、『輪郭のぼやけた存在感を出したかった』のだと思います。甥っ子は「知らないし。」と突っ込みながらもヤマネの事が気になり始めます。

 

「東京みたいに平坦な道ならいいけど、ヤマネの住んでたところは山がいっぱいあってね。トンネルが多かったの。トンネルって知ってる?」

 

「知ってる。」二人が答えます。「じゃあ、トンネルの中自転車で走ったことある?」と、聞くと「ない。」という返事。

 

「トンネルの中って音が凄い反響するの。車に乗ってると分かんないけど、自転車で走ってると車が来ただけで「ゴオオオオオ」って凄い音なの。ヤマネはそれが嫌いでね。本当はトンネルなんか通りたくないけど、通らないと家に帰れないから仕方無いよね。」

 

「こわーい!」と姪っ子がくっついてきます。すかさず兄の「しっ!」という注意。話が本題に入った事を察知しているのです。でも、肝心の僕は話の先を知りません。だってデタラメ話なんですから。
ただ、僕は一つの情景を思い出していました。小学生の時、釣りをするために山越えをした『無月トンネル』の光景です。
先の見えない長いトンネル。心もとないオレンジの灯り。やがて聞こえる車の音。カーブを曲がってくるヘッドライト。
この一つ一つをヤマネが「今」見た事として語ります。甥っ子も姪っ子もギュッと近づいてきました。よし、今だ!

 

「ヤマネはね、『あれ?』って思ったの。『なんか音が違う』って。『これ、車の音じゃない!』って。向こうから走って来るのはね、車じゃなかったの。それは…」

 

「やめてーーーー」姪っ子は、ここが限界でした。「面白いの!面白いの!」という悲痛な叫びを聞いて僕の話は急旋回。

 

「ブウウウウウって走ってきたのは、豚だったの。ブッブッブッブッ豚の群れ。丸々太ったね。山の向こうの豚小屋から豚が逃げたんだって。ヤマネが学校の帰り、トンネルの中で豚とすれ違ったっていう話。」

 

姪っ子甥っ子は最初キョトンとしていましたが、やがて大笑い。話してた僕も大笑い。
いやあ、楽しかったなー。
一所懸命聞いてくれるから話はどんどん生まれていく。僕はただ二人の反応を感じて喋っただけ。話を作っているのは、実は姪っ子と甥っ子の方だったんじゃないかなあ、と思う位。

 

「じゃあ、トンネルの中自転車で走ったことある?」と、聞いて「ない。」と返事が来た時、この物語は生まれました。

 

ストーリーがあるわけではありません。教訓もありません。でも話し手と聞き手は確かにヤマネの姿を見ました。いや、ヤマネの見た景色を体感しました。三人一緒にトンネルの中に立っていたんです。
話し手と聞き手がお話を通して同期すれば、話はおのずと進んでいく…物語の原型を見た思い。

みなさんも、子供と一緒に布団に入って読み聞かせをする時、たまにはこんなデタラメ物語を作ってみてはいかがでしょう?
もちろん、デタラメではなく、自分の小さい頃の記憶をそのまま話してもいいと思います。
ポイントはただ一つ。「今見えている(聞こえている)ものだけを話すこと。」
そしたら世界に一つだけの物語の誕生です。
ヤマネの話なんて、なんでもない話なんですよ。でもこの日の夜の僕たち三人にとっては、他のどんな立派な物語より盛り上がれたといっても過言ではない。

ひょっとして子供たちは、物語の内容を聞きたいと思っているのではなく、物語を話してくれる人とつながりたいと思っているだけなのかも知れません。
すると、演劇を語る時の指針とされる「ドラマの有無」は、お話の中の「うねりの有無」を指すのではなく、お話を通した語り手(演者)と聞き手(観客)の「つながりの有無」を指しているといえないでしょうか。
良い演者とは、「うまい役者」ではなく「つながれる役者」。
良い物語とは「うねる物語」ではなく、「つながれる物語」。

どうでしょう? 答えは出すつもりはありません。
でも姪っ子と甥っ子のおかげでまた一つ新たな疑問が生まれました。ありがと。

 

※この「見た光景をそのまま話す」「とにかくキャラクターを作ってみる」という劇作法は、児演協の講座「劇作講座」(主任教師 西田豊子)にてWS形式で学ぶことができます。
次回は8月13、14日(ともに13時から。新宿。無料)僕も講師として参加します。ご興味ある型は下記チラシからお申し込みくださいませ!!

劇作講座 チラシ表

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